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Music Synopsis

音楽に思考の補助線を引く

【寄稿文】黒くなった指の数だけ 〜日本語ラップ 90’sアナログ発掘記〜 文:藤吉なかの

たまには自分が普段書かないジャンル系を書ける人でいて、なおかつそこまで難しくはないフラットな記事がいいと思い、普段はアニメ・映像を軸に論評を書いていらっしゃる藤吉なかのさんに寄稿していただきました。

面白い人で、会うたびに必ず「DISK UNION」の袋(あるいはカバン)をもって登場するという気さくな方ということもあり、noteの記事での熱量を音楽に注ぐとどうなるのか?という点も気になったので快諾していただき誠に嬉しく思います。この場を借りて感謝します。藤吉さんご本人の一推しということで、『ゆゆ式』の記事が良いということでしたので、こちらで紹介いたします。気になる方はぜひチェックをしてみてください。

note.com

 

 

なお、寄稿文は本人の文調を優先するため、内容などの手入れはほとんど行っていないため、純度は高いと思います。当ブログでの熱量とはまた別のベクトルで音楽記事というのも一興だと思うのでぜひ読んでいただければと思います。


本編

 

 

はじめに(SUPER HEAVY REVIEW INTRO)

MCバトルのブームや多くの才能あるアーティストの台頭なども手伝って、今や日本語ラップは押しも押されぬメジャーな音楽ジャンルの一つとなった。Creepy Nutsが数えきれぬほどのメジャーヒットを飛ばして名実ともに国民的アーティストになって久しいことからも、日本語ラップが史上最も多くの人々に口ずさまれる、つまりは聴かれている時代と言って差し支えない。

 

しかしその一方で、豊かなこのジャンルを築いた黎明期から「さんピンCAMP」後の日本語ラップ黄金期(80年代〜90年代後半)に発表された音源は、近年の若年層世代からは十分に語られていないと感じることが多い。該当時期に発表された作品はサブスクが解禁されている音源も限られ、自ずと振り返られることも少ないのが現状なのではないだろうか。

 

この時期の音源は90年代を愛するヘッズにとってはメジャーなものであったとしても、市井の音楽好きにはあまり知られていないと言っていい。

 

例えば、フジロック2022の時にPUNPEEが、SP1200を用いて『ECDのロンリーガール』を演奏する感動的なシーンで、当の観客が全く沸いていない様子を踏まえると、悲しいかな……それが現実であると分かる。

 

CD化されていないアナログレコードオンリーの音源の数々は尚更だ。今や歴史の闇に埋もれつつあるアナログオンリーの90’s 日本語ラップは着々と「レアグルーヴ化」していると思う今日この頃である。

 

この記事はそんな日本語ラップのアナログオンリー秘蔵っ子音源をただただ列挙していくだけの無芸な文字の羅列だ。この記事はクラシックな日本語ラップの再評価を志す文章としても、まだ見ぬ新たな観点で日本語ラップを掘り下げる文章としても、ましてや豊かな知識を持つヘッズがやっと書くことを許されるような「日本語ラップ・ディスクガイド」としても読まれることを望まない。この文章は約2年半前、RHYMESTAR『リスペクト』・スチャダラパー『5th wheel 2 the coach』を入り口にして日本語ラップの深みにどっぷりハマった人間が記す個人的なオススメに過ぎない。

 

日本語ラップというジャンルを考える上で不可欠な歴史的意義を持つ楽曲もあれば、好き者たちが語り継いできたdopeなレコードまで、まとまりのないこの文章はどこまで行っても雑文に過ぎない。筆者である自分の極めて浅い知識を総動員して書かれるこの文章に、一体どこまでの価値があるかは不明だ。

 

しかしひとつの事実として、こうして90’s日本語ラップのアナログ音源について語られたweb記事は(その文化的意義と反比例するように)未だ少なすぎるのである。これは主観と客観が混ざり合う不確かで稚拙な文章ではあるが、自分のような90‘s日本語ラップを愛する若いヘッズの情熱が伝わる「何か」となれば幸いだ。

 

また本記事に挿入されている画像の一部は、自分などが並ぶベくもない生粋のディガー・takuchiさんが運営されているブログより引用させて頂いた。

ameblo.jp

この場を借りて、日頃より懇意にして頂いていること・画像提供を快諾頂いたこと心からの感謝を!

 

The Hardcore Boys『俺ら東京さ行ぐだ(ほうら いわんこっちゃねえ MIX)』(1985)

皆さんも同僚や友人などに「昔の日本語ラップが好きなんですよ」なんて話をして、「日本語ラップってアレでしょ!?吉幾三から始まってんでしょ(笑)」としたり顔で切り返された経験が100万回あることだろう。しかしそんな至極つまらない連中が鬼の首でも取ったかのように掲げがちな吉幾三俺ら東京さ行ぐだ』起源論だが、実は決して真っ赤な嘘というわけではない。俗に言う「ラップ歌謡」を代表する名曲という観点からも無視することが出来ないが、それ以上にストレートな形で日本におけるHIPHOPミュージックの原点に深く関係しているからだ。

 

日本語ラップ史の大きな転換点であり、宇多丸(RHYMESTAR)をして「日本のヒップホップ史はじまりのうた」と言わしめたクラシック『業界こんなもんだラップ』と殆ど同時期である1985年の暮れのこと……『俺ら東京さ行ぐだ』をネタにして、この歴史的なレコードが誕生した。

 

日本テクノミュージックシーンの先駆者であるDJ K.U.D.O.、DJ OYANAGI、そして日本最初のダブバンド「MUTE BEAT」のメンバーである屋敷豪太とDub Master Xの4人から成るThe Hardcore Boysと、言わずと知れた先駆者・いとうせいこうの共演作にして、日本語ラップ史上でも有数のメガレア盤である『俺ら東京さ行ぐだ(ほうら いわんこっちゃねえ MIX)』。惜しくも発禁処分にされてしまったこの一枚の音盤から、歴史は大きく変わったのである。

 

この楽曲は既存曲をエディットする試みの先駆的作品としても捉える事が出来るし、或いはいとうせいこうによる「日本語ラップ」・「日本のヒューマンビートボックス」の先駆けとしても高く評価する事が出来る。リリックからいとうせいこうHIPHOPに賭ける情熱を感じることが出来る『業界こんなもんだラップ』も問答無用のクラシックだが、こちらもまた言わずもがなの記念碑的作品だ。

 

ここまでは楽曲が持つ歴史的意義にばかり光を当ててきたが、純粋に単一の楽曲としても完成度は高い。先述した吉幾三俺ら東京さ行ぐだ』をエディットして鳴りが強烈なbangerビートに魔改造、痛烈な社会風刺までも盛り込んだ先進的な仕上がりは一度でも聴けばやみつきになること請け合いだ。「テレビもゲイ ラジオもゲイ(中略)おまわりヤクザとぐーるぐる/エイズもそれほど流行ってねえべ/角さんと中曽根と数珠を握って空拝む」……こうして一部を引用するだけでもその攻撃性が察せられることだろう。

 

こんなのはありふれたリリックで社会問題を笑いの種にする「演芸/話芸」の延長に過ぎないと切り捨てる人もいるかもしれないが、そういった話芸と今日の日本語ラップが近似したルーツを持つという事実そのものが重要ではないか。実際いとうは後年に日本語ラップの根源を辿る営みの中で「演説」の研究に行き着き、その(ひとまずの)研究成果として凄腕トラックメイカー・BAKUと『DHARMA』という名曲を残している。

 

エッヂの効いた選曲に定評があったラジオ番組『サウンドストリート』1985年11月12日放送回にてこの楽曲の基となるエディットが流された際、スタジオの坂本龍一もこの楽曲を聴いて「最高ですね」と声を漏らしたというのだから、その圧倒的なクオリティは折り紙付きだ。500枚限定のトップレア・レコードであるため入手は相当に困難だと考えられるが、聴く機会があればぜひ丹念に向き合って頂きたい。そしてこれを読んでいるヘッズの中にこのレコードを持っている強者がいたら、ぜひ言い値で買わせて頂きたいと願うばかりだ……



四街道ネイチャー『HIGH-NEKKEN』(1996)

四街道ネイチャー『HIGH-NEKKEN』

続いては、スチャダラパーを中心としたクルー「リトルバード・ネイション(LB Nation)」の一員にして、1998年発表の大名盤『V.I.C.tomorrow』 でシーンに衝撃を与えた実力派グループ・四街道ネイチャーのアナログオンリー音源をご紹介。

 

セルフタイトルのEP1枚と先述したアルバム1枚のみを残したこのグループは、最高級のトラックに最低のリリックを乗せ、独自のリアルさを表現するスタイルが持ち味と言える。なんといっても四街道のプロデューサーであるKZAとDJ KENTは後に「Force of Nature」名義でnujabesらと共にTVアニメ『サムライチャンプルー』に参加する腕利きの仕事人だ。彼らの生み出すトラックはゆったりとしたチル系からバッキバキのエレクトロニカ まで全てが極上で、ただの一曲も外れはなし!

 

しかしそんなトラックに乗せて歌われるトピックはどれも「サンダル履く時くらいは靴下を履け」「おなかを大切に」「冬は手がかじかむから家事を溜め込んじゃう」といった等身大すぎるものばかりだ。LB Nationの先輩にして「社会派なんてクソ食らえ」というパンチラインを残したキミドリですら怯む程の自然体っぷりと個性に、我々リスナーはもう諸手を挙げて降参するしかないだろう。ある意味では今回紹介したアーティストの中でも、最もHIPHOP外のリスナーに響きうるサウンドを持っているアーティストだと言えるかもしれない。

 

そんな彼らが1st EPとアルバムの間に残したシングルが、今回紹介する『HIGH-NEKKEN』だ。1992年から音源を残すベテラン・MC JOEを客演に迎えたA面の同名楽曲は、ファットなビート上で一度聴いたら忘れられない印象的なリフが多幸感を振りまくモラトリアム酒飲み賛歌!(余談だが筆者が成人後に初めて飲んだお酒は、この楽曲の影響でハイネケンである。)聴けば聴くほどに各MCの持ち味が爆発していて、なんとも素晴らしくLBらしいマイクリレーだと言えるのではないだろうか。

 

楽曲のオープナーを務めたマイクアキラは度肝を抜く変態フロウで簡潔にテーマを説明しつつ、客演のMC JOEや相方KZAとのテンポ最高な掛け合いまで難なくこなしていて、おどけたようでも確かな実力派であることを否応なく分からせてくるのが渋い!バトンを受け取ったMC JOEはレコード片付けをする何気ない幸せな一日をフリーキーかつコミカルにラップ。KZAは労働に押しつぶされる日々のなんとも言えない閉塞感を、得意技である2文字ライミングを駆使した巧みな情景描写で表現していたりと、リリック面にも見所は多い。

 

特に「良いもの探そう一生~♪(中略)グッと飲み干すハイネケン」というHOOKのフレーズは、レコードマニアに留まらず、あらゆるオタクの心に刻まれうるパンチラインと言えるだろう。今回の記事で紹介するアナログの中でならばダントツで入手難易度が低い盤なので、ハイネケン片手にぜひ手に入れてみて欲しい。




Yitto『虚無僧DEMO』(1996)

Yitto『虚無僧DEMO』


これまで紹介してきた作品の中でも、頭ひとつ抜けた激カルト盤を紹介!インターネットにも殆ど情報が無い謎のMC・トラックメイカーYitto(プロデュース名は「Yitto the 外道」)のプロモオンリー・1996年作。レコードの中心ラベルに手書きで電話番号が書いてあり(!?)そこから察するにどうやら東京の人であるようだが……彼についての詳細は歴史の闇に葬られたか、全く素性が不明であるというのが現状だ。

 

どうやら1995年からTOKYO-FMでオンエアされていた伝説的番組『ヒップホップナイトフライト』内のデモテープ紹介コーナーで流れたことがあるらしい……という情報を耳にしたことはあるが、それだけ。90’s日本語ラップの素性不明なアンダーグラウンド・クラシックといえば、今や都市伝説的にじわじわと支持を集めるニッポニア・ニッポン『怠け者』を真っ先に連想する人も多いだろうが、このYittoは正真正銘の謎である。

 

本盤は全8曲収録で、うち7曲はボーカル無しのインスト。ラップ入りなのはB面ラストのみだが、それでも全く飽きが来ないアブストラクトな音世界はまさに地下に眠る秘宝といった趣がある!全体的に煙ためでダウナーな音像であるものの、B面1曲目『真実 too real to live』なんかは一転して大胆にピアノリフをチョップ&フリップ、軽快かつ広がりあるループに仕上げるなど手数の多さが伺えるのも筆者好みだ。後のTemple ATS降神)的とも感じられる陶酔感が充満した空気の中を、稀にUSアンダーグラウンド・Company flow影響下のイかれたリズム&クラッとくる上モノが通るような……とでも例えれば想像が付きやすいだろうか。

 

そして待ちに待ったラップ入り楽曲『己の世界 My World Is Born』に差し掛かると、本盤の盛り上がりは頂点に達する。呟きと呻きの中間のような独特の発声 ・聞き取り不能なリリック・喋るようでしっかりリズムを掴んでいるフロウ……これらの要素だけでもアングラすぎて最高だが、この曲の最も素晴らしい点はトラック構成にあるのだ。この楽曲は最初、シンプルなドラム&ベース&ハンドクラップのみをバックにラップが始まるのだが、小節が進む毎に金管、木琴、木管、呻き声などの上ネタがじわじわと増えていくのである!

 

この構成は決して斬新とは言えないかもしれないが、少なくともここまで作品に耳を傾けてきたリスナーの予想を裏切る一撃であることは間違いない。何故ならこの『虚無僧DEMO』という作品を通して、Yitto the 外道は完成したワンループを重視する-つまり曲中のフレキシブルな展開に乏しいとも言える-スタイルをリスナーに印象づけてきた。

 

そんな中で大事なオーラスに、HIPHOP版『ボレロ』とでも呼びたくなるダイナミズムに溢れた『己の世界 My World Is Born』をぶつけてくるのだ!これまで7曲かけて丁寧に刷り込んだ自己のイメージは、全て締めくくりへ向けての壮大な布石。シンプルながら練り上げられたリズムパターン上で次第に上ネタが増えていき、圧倒的な地下のグルーヴへと結実していく本楽曲は、まさに題名通り「世界の誕生」を思わせる決定的なクオリティだ。

 

90’s日本語ラップの深淵とも言える本楽曲を聴くためだけにでも、ぜひ『虚無僧DEMO』をレコ屋の棚から掘り当ててみて欲しい。きっと、そう悪くない音楽体験が貴方を待っているはずだ。

RHYMESTAR『B-BOYイズム パチアツRemix』(1998)

RHYMESTAR『B-BOYイズム パチアツRemix』


日本語ラップの歴史を語る上で絶対に外すことが出来ないクラシックの、知る人ぞ知るRemix盤。レコードマニアからしたら「寧ろこれは人気盤だろ」ともツッコまれそうだが、今回はその筋のマニア向け記事ではないので「知る人ぞ知る」とさせて欲しいところである。まずは一旦Remixされる前の原曲の素晴らしさから語っていくことで、本楽曲の素晴らしさに迫っていこう。

 

『B-BOYイズム』はRHYMESTARが1998年にリリースした大クラシックアルバム『リスペクト』からの先行楽曲であり、日本でHIPHOPに関わる人間「B-BOY」とはどうあるべきかを示した金字塔的な楽曲だ。そもそも大前提として「HIPHOP」という言葉は音楽ジャンルではなく、ラップ・DJ・ダンス・グラフィティの4要素から成る文化を指す言葉である。

 

つまり音楽的にどうこう……という基準も重要ではあるものの、それ以前にまずHIPHOPという文化のマナーに則って各々がプレイヤーとして意識的な言動を取っているか?それぞれがHIPHOPをどう読み替えてオリジナリティーを獲得していくか?も同じくらい重要なトピックなのだ(と自分は思っている)。先駆者として日本人がHIPHOPをすることを様々な角度から分析・実践してきたいとうせいこうに影響を受けてB-BOYとなった宇多丸からすれば、どこかでこの問題に対して自分なりの返答をしなくてはならないと考えていたことだろう。雑誌『FRONT』での連載 などを経て、彼およびRHYMESTARが出した答えが「決して譲れないぜ この美学/ナニモノにも媚びず 己を磨く」だったのだ。 

 

話題を本筋へ戻そう。このように『B-BOYイズム』は名実ともに日本のHIPHOPアンセムと称するに相応しいわけだが、そのアンセムにこれまた偉大なHIPHOPアンセムを思いっきりぶつけ合わせることで生まれたのがこの『パチアツRemix』だ。

 

原曲『B-BOYイズム』では、映画『フラッシュダンス』で使用されたことなどからブレイクダンスカルチャーの火付け役となった有名ネタ・Jimmy Caster Bunch『It’s Just Begun』をサンプリングしているのに対して、『パチアツRemix』ではIncredible Bongo Band の『Apache』という楽曲がサンプリングされている。

 

この『Apache』はHIPHOP文化を形成した偉大な3人(Afrika Bambaataa, Kool Herc, Grandmaster Flash)に寵愛され「HIPHOPの国歌(アンセム)」とまで称された楽曲。まさに二つの意味で“擦られまくった”ブレイクビーツのクラシックと言えるだろう。

 

そんな『Apache』の上でRHYMESTARが『B-BOYイズム』をラップするというRemixの妙といったら感動モノである。言わずと知れたHIPHOPアンセムの煙たいドラムブレイクから、極東で新たなアンセムが孵化する瞬間の決定的な美しさ。HIPHOPの歴史を知っていたならば感涙必至の名Remixと言えるだろう!これも『俺ら東京さ行ぐだ(ほうら いわんこっちゃねえ MIX)』程では無いものの激レア盤なので、どなたか僕に言い値で譲って欲しい。




牙『隠れ家/叫び』(1998)

牙『隠れ家/叫び』


1990年代後半、それは伝説的ライブイベント「さんピンCAMP」のビデオが全国へ出回ったこと等が影響して、地方から多くのクルーが台頭し始めた時期である。名古屋のILLMARIACHI、北海道のTHA BLUE HERB、横浜のOZROSAURUS、水戸のLUNCH TIME SPEAX、熊本の餓鬼レンジャー、博多のTOJIN BATTLE ROYALなどなど……個性と確かな実力が滲む珠玉の音源が大量にリリースされてシーンを賑わし、集大成としての各地方代表が集まった傑作コンピレーションアルバム『RAP WARZ DONPACHI』へと繋がっていくうねりの時代。

 

そんな群雄割拠の状況下、当たり前ながら先述したようなクルー達のように今日まで知名度を保っていられる者ばかりではない。そんな知る人ぞ知る地方アーティスト音源の中でも特にオススメしたいのが、静岡の沼津出身と推測されるクルー「牙」による唯一作『隠れ家/叫び』である。とにかく荒削りでキャラ立ちした90’sらしい日本語ラップが楽しめる快作で、ごく一部のマニア間ではカルト的な人気を誇っている。

 

牙のMC陣の名はなんと、亢龍・白虎・青龍・朱雀 。四神獣をモデルにしたこのいなたいネーミングからして、既に男の子ゴコロがくすぐられるが……そんなアク強めのMC達が確かなクオリティのビート上で「マッハ超えて飛べ俺の唾」(by G.K.MARYAN)とばかりに、前のめりなラップを披露!A面「隠れ家feat. Shima」は古畑任三郎のOPばりの上ネタが印象深いハードナンバーで、「朱雀暴く裁き下す闇の使者」とハネ感に溢れるフロウをかます朱雀が素晴らしい楽曲。

 

そしてB面収録の「叫びfeat. Sally・Shima」は問答無用でクラシック認定したい大傑作だ。スタンダードなブーンバップのリズムと背筋が震えるような上ネタのピアノがガサガサとした本質的なLo-Fiさを残したまま合体した存在感あるトラックだけでも最高だというのに、何よりそのサウンドに対してMC陣が一歩も引かず、対等以上に渡り合っているのがもう鳥肌モンの完成度!90年代日本語ラップの醍醐味がこの楽曲には詰まっている。

 

空へ昇るようなフロウで魅せる白虎・地面を踏みしめるようなフロウで首を振らせる青龍のラップを聴くと「お前らMCネームとラップスタイルが逆すぎるだろ」と思わないこともないが、相変わらず口から火を吐かんばかりに熱くラップする朱雀のバイブスにはやはり一聴の価値がある。そして他の誰よりも注目すべきMCは、当時としては珍しいフィメールラッパーのSallyだろう。とにかく形容しがたい特異なフロウでビートの間を泳ぎ切る卓越したラップスキルは一度聞けば忘れる事など不可能で、何ともクセになる。小節の中で一度たりとも同じ音程に留まってたまるか!とでも考えているかのよう、とにかく動き回るマグロの如きフロウコントロールは後にも先にもSallyによってしか実現されなかった離れ業なのではないだろうか。

 

これぞアンダーグラウンド日本語ラップと太鼓判を押したくなるMC陣の荒削りなラップスキルとゴツゴツと前面に襲い来るトラック、本作で彼らが見せつけた圧巻のB級スタイルは再評価されたら瞬く間に価格が高騰しそうな予感に溢れている。そうなる前にこのレア盤を、なんとしても手に入れたいものだ……




ガリガリ亡者『花/リベンジ』(1998)

ガリガリ亡者『花/リベンジ』


黎明期の日本語ラップシーンが東京中心の構造だったことは先述したとおりだが、そんな不遇の時代において最も東京に肉薄していた地方都市と言えば名古屋であろう。

 

日本語ラップ随一の天才MC・TWIGYと任侠魂溢れるサンプリングでお馴染みの最狂音術師・(DJ)刃頭によるBEATKICKSは80年代後半から世界的に見ても最先端であろうパフォーマンスでクラブをロックしていたというし、なんと言ってもあのStevie Wonderが行った日本ツアーに若干20歳にしてゲスト参加していた(!?)という功績には無視できない重さがある。そんな一癖あるB-BOYが生まれる名古屋という地に、秘蔵の音源が眠っていないわけがない。ここで紹介するのはそんな名古屋の「一癖」なアクが詰まった音源、ガリガリ亡者の『花/リベンジ』だ。

 

A面には『花(カリオストロミックス)』とそのインスト『カリストゥルメンタル』を収録。そのMix名の通り、『ルパン三世 カリオストロの城』サントラを元ネタ使用した豪快な調理にマニア心をくすぐられる一曲で、そのクオリティは折り紙付き。思わず抜き足差し足……と歩きたくなってしまう不穏なイントロから、突如入ってきた笛の音に合わせるようにしてどこか牧歌的なメインループへ展開していき、アウトロでまた不穏なイントロ部へ着地する……というトータルの構成力は見事の一語に尽きる。間奏でちゃっかり同作ヒロイン・クラリスの声ネタを組み込んじゃう遊び心も何ともB級で良い!

 

そしてB面には『リベンジ(J.A.C. Mix)』とそのインスト『(ジャパンアクトゥルメンタル)』を収録。千葉真一氏が創設した「ジャパン・アクション・クラブ」の名を冠したMixということはその人脈が出演した映画サントラからのサンプリングだったりするのか?とは思いつつも、こちらは元ネタが発見できず……先輩ヘッズの皆さん、ぜひコメント欄とかでサンプルネタを教えて欲しい。

 

しかし何と言っても本楽曲のトラックメイカーは先述した御大・DJ 刃頭!イントロこそゆったりと癒やされる上モノから始まるものの、邦画ネタと思われる声ネタ「一人前の漢になれぃ!」に呼応するような形で、一気に楽曲の空気はハードな漢の空気感へ。「リベンジ」という単語を軸に数々の声ネタを矢継ぎ早にねじ込むハードアタックっぷりは必聴ものだ。

 

タイトルやテーマを軸に声ネタを積み重ねていく本楽曲の刃頭ワークは、もう完全にILLMARIACHI 節としか言いようがない仕事ぶり!キャラ立ちした両ビートに乗っかるMCのロカ、そしてドラエマンの力量には疑問符が付くというのが個人的な印象であるものの、やはり一家に一枚……いや、B-BOYなんだから二枚は置いておきたいB級クラシック。




010(霊獣)『言論の自由/蝶』(1999)

010(霊獣)『言論の自由/蝶』(1999)


今度は一転、東京に眠るアナログ秘宝をご紹介!1990年代後半の東京アンダーグラウンドシーンで存在感を示したグループのデビュー12インチシングルだ。

 

MCのUN-KEIとYUYA、DJ/トラックメイカーのSENBE・DJ KENZOによって構成されるグループである010はその名からも分かるとおり、とにかくdopeな地下サウンドが持ち味。DJ KENZOは煙たさの中にNaked Artz(DJ TONK)を思わせるメロウなサンプリングを行って世界観を作り上げるタイプなのに対して、相方のSENBEが他の追随を許さないブリッブリでillな方面へ傾倒しているのが端から聴いている我々からしても丸わかりで面白い。2ndシングル『ケモノ道/ 2 type』でもこの傾向は変わっていないのだが、特にそうした手癖がバキバキに感じられるのがこの『言論の自由/蝶』だ。

 

A面がSENBE side、B面がDJ KENZO sideという具合にトラックメイカーが異なる2曲を収録した本作だが、やはり一番ソソられるのは狂ったSENBEビートの魅力が存分に堪能できるA面だろう。「言論の自由掲げる霊獣/言葉の手裏剣が命中」という弩級パンチラインが耳を突き刺すHOOKのキャッチーさもさることながら、やはりビートの攻撃性が段違いである。

 

モコモコッと膨らんだ規格外の低音が不規則なリズムを刻み、その上でさらに破壊的な鳴りのドラムが高音部に真っ黒の花を添えるビートは信じがたいほどのクールさで、個人的に日本語ラップのビート史でもベスト10に数えたい。

 

4分の楽曲のうちイントロが1分半弱を占めるという攻撃的な構成も納得の圧倒的クオリティ、このビートを作り上げた際にSENBE氏が浮かべた自慢げな顔がありありと浮かぶようだ。また、この悪魔がかったillビートを活かすMixも本当に素晴らしく、レコードの針を落とそうものなら、たちまち建物全体が揺れるような圧倒的な低音に窓ガラスを粉々にされること請け合いである。

 

こういったillビートを聴くとまず想起されるのはアンダーグラウンドの帝王・K-BOMB率いるTHINK TANKだが、正直このシングルのみならば010はサウンド面で全く引けを取っていないと言い切れる。寧ろ010『言論の自由』発表の前年にそのTHINK TANK人脈からリリースされたSTILL NAP『火に油/開かずの扉』 を聴いてみると、(掛け値無しにカッコいい曲ではあるものの)モコモコッとした低音の鳴りには若干物足りなさを感じてしまうというのが本音だ。モコモコッとした音を鳴らそうという方針自体は素晴らしいのだが、もう少しその「音塊」に迫力があって欲しいなと思ってしまうのである。そりゃ1998年なのだからこうした理想の音をスタジオ録音された作品に昇華するのが難しいという事実は想像に難くないのだが、なら010のこの驚異的なクオリティは何なんだ!?と思ってしまうわけである。トラックのillすぎるクオリティに加えて、アナログ特有と思われる低音部分の頭抜けた存在感は圧倒的だ。決して入手が簡単ではない作品だが、その苦労をチャラにするかのようなどす黒いビートが貴方を待っていることだろう。




おわりに(NOSTARGY 220919)



音楽について言葉で語るという行為は、根本から破綻している。楽曲が持つ有り余る魅力を言葉にしようと聞き込めば聞き込むほど、その魅力は到底言葉などでは表現しきれないからこそ-言葉に落とし込むことが出来ないからこそ-魅力的なのだと気づかされるからだ。

 

しかしそんな無理は承知である。そんな無理を承知で、なお語り継いでいかねばならないのだ。偉大な先人達が巨木に刻み込む年輪のように創造・蓄積してきたレコードの溝に秘められた秘蔵の音楽を、今一度振り返るべき時が来ている。その一助にこの文章がなれたかは分からない。しかし分からないならば分からないなりに、スチャダラパーよろしく「世間に風穴を/あくかな?でもやるんだよ」の精神で文章を書き続けるだけだ。

 

最後になってしまったが、この記事を読んで一人でも多くの同世代がアナログの呪いに取り憑かれてくれたら、この上ない喜びである。毎日毎日指を黒くしてレコ箱を密漁しにかかる、どうしようもなく最高な人生に幸あれ!