Music Synopsis

音楽に思考の補助線を引く

七号線ロストボーイズ (amazarashi)感想・レビュー

さて、私がamazarashiというアーティストをそこそこ好きだということは以前の特集記事を読んでいただければわかると思う。

sai96i.hateblo.jp

ここではかなりの熱気をもって何が良いのか、何に惹かれるのかという、ある種一つの動機付けを力点にして書いた。そのフック、というよりかは装置としてアルバムの遍歴を追っていった。各ディスコグラフィー上、どういうテーマ性があるのか、そして歌詞にどういった"仕組み”や"ネタ元"が入れ込まれていてそれを昇華しているかなどを中心に書いていった。その中でこう感じた。ボイコットの時点で「秋田ひろむはこんなものか」という感情と、「まだいけるはず」という期待の二点が混じった。初期のエネルギッシュさが莫大なminiアルバム通して夕日信仰を生み出し、社会性・音楽性という意味で頂点を極め、次作では視点誘導的なポジションで方向性は違うが、前作に劣らないというなんとも絶妙な作品を残してくれた。その後、地方都市のメメントモリ、ボイコットとなるわけだがどちらもいまいちであった。というより一長一短に差があったのだ。一長を挙げると音楽性と歌詞の総和の濃度が高いメメントモリと、amazarashiが扱うテーマにしてはこれ以上ないほどぴったりなボイコット。一短は一長をやりきれていないという反側的。聴いたことがない人のために分かりやすい例えをすると村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』と『国境の南、太陽の西』を連続して読んだ感覚とでも書くべきか。それが故に、私はamazarashiは次のアルバムでここを乗り越えれば夕日信仰クラスのものが来るのではないかという予感があった。だから事前に出ている曲なども一切聴かないようにしていた。アルバムを通した総体としての感動を損いたくなかったからだ。

 

そして待ちに待った新作アルバム『七号線ロストボーイズ』が世に放たれた。

七号線ロストボーイズ

七号線ロストボーイズ

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥2139

 

では本作はどうであったかというと

暫定位最高傑作

ここにきて秋田ひろむはやってくれました。久々の名盤を出してくれた。

理由はいくつかあるのだが、長々と書くには時間が足りないので端的な要約とこのアルババムがどうなのかを書く。

その1.ハズレ楽曲がない。

  • どの曲も良曲~名曲の域を保っている

その2.アルバムテーマに対して一貫

  • 前作、ボイコットの時に空気のような存在として収録されていた夕日旅立ちの様なこのトラック必要か?という謎の構成ではなく一貫している。

その3. 11曲という比較的コンパクトなトラック数でアルバム世界観に無駄がない

  • 名盤の中にも1-10で終わっておけよ、もう完結しているという状態から2~4曲続けられると蛇足になるのでそこまでの感動が薄れるという、クリエイターのやりすぎ感が本作にはなく、きっぱりとアルバムの世界観を1~11のトラック線で描き切っている

その4.過去楽曲を彷彿とさせながら、それらを通った上での進化形として昇華

  • 過去曲の焼き直しという見方もできるが、どんなアーティストであれ10年も続けていれば『型』という〜節が出て当たり前なので、それをいかにアップグレードしているかという視点で聴いた時、本作は過去曲ほ彷彿とさせつつも、今だから作れる楽曲群になっている

大まかに書くと以上の通り。

 

ではそれぞれ1曲単位で所感を書いていく。先述の通り、リリースから日もたっていないいないため、生煮ではあるがそこは容赦していただきたい。

トラックリスト(収録順)は以下の通り

 

  • 感情道路七号線

感情道路七号線

感情道路七号線

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

これまでにもアバンタイトル的な役割を冒頭に入れてきたが、いまいち乗り切れない曲だった。がしかし、今作では思いっきり重低音メインで歌詞も重々しい単語をどんどん組み立てていっている。これは初期のリリックの鋭さに通底する。

生きるために死んで、享楽にえずいて欲しいのは機関銃 恐れと己の顔面を撃ち抜いて

the・秋田ひろむリリック。こういう歌詞をamazarashiというアーティストの曲で聴くことがどれだけ気持ちのいいことか。そして最後に近い歌詞

大切なものは変わらず手の中、毎夜確かめる変わらず今日も手の中

こじつけかもしれないが、「手の中」というフレーズは意識的に使っている。なぜかといえば、この表現はというと、どうしてもブルーハーツの『未来は僕等の手の中』という楽曲を想起してしまうのだ。

未来は僕等の手の中

未来は僕等の手の中

  • provided courtesy of iTunes

そしてブルーハーツと秋田ひろむとの関係はもはや言うまでもない。このようにアバンでしかない1曲目からエッセンスが大爆発しているのだ。環状と感情もミュージシャンのセンスとして抜群。

  • 火種

火種

火種

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

イントロはピアノとビート掛け合い、そしてAメロで存分にギターをならしてメインのプロットはリビングデッドで進行。しかし、あれ以上に優れている構成をしていて、つまりは総和として色々な楽器が重なり合い、最終的にポップスソングとしてバランスが取れている。いってみればポップロックとこれまでのamazarashiの音楽との融合体。そしてサビメロディも秀逸。2m35s以降の間奏の入り方からラストサビにいくまでの過程もこれまたamazarashiでしか聴けない節が炸裂。編曲と作曲が見事に調和しあった圧巻の1曲。

  • 境界線

境界線

境界線

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

実は全トラックの中でも最もアップテンポであり秋田ひろむが書く楽曲として明るくも切なさが残るトラックだと思う。過去にはフィロソフィーなどの習作を経ての本作。

存在意義はいつだって自分以外

こういうアフォリズム的でありながら、歌ものとしての表現にとどめるフレーズが久しぶりに秋田ひろむの歌詞で感じられた。

ロストボーイズ

ロストボーイズ

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

景観的な、そして「あんたへ」的な応援歌でありながら「雨男」的、歌詞の単語が重々しい。そして生々しい過去の描写。

少年は闇の中、金属バットやカッター、ナイフとハサミでは切り裂けない闇がある

少年は闇の中、10年経っても闇の中 襲われる「あの頃はよかったよな」

1番、2番歌詞を抽出してみたが、伊達に歌詞重視の作家ではないことがわかる。

テーマ性というか、秋田ひろむが如何に言葉としての表現者の使い手であるか、という点について尽くした作家性あふれる一曲。タイトルのロストボーイズという絶妙なラインも含め全てが良い。単曲の一推しベストは間違いなくこれ。

  • 間抜けなニムロド

間抜けなニムロド

間抜けなニムロド

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

ニムロドというと、旧約聖書のキャラクターの一人ではあり、神に挑戦し、天にまで到達しうるバベルの塔を建造した人としても名は定着しているが、私の中でこのキャラはダンテの神曲の地獄編の9圏で裁かれるニムロドだ。ここまで書けばある一枚の挿絵を想起する人も多いだろう。裁きの内容も中々で

奴の言葉が他人にまったく不可解なように、奴には他人の言葉はいっさい不可解なのだ

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角笛の巻きついたニムロデ 挿絵画家: G・ドレ

まぁここら辺は実際に読んでください。どこにでもおいてある名著ですし。

まぁニムロドといえばこのようなイメージがあったので「間抜けなニムロド」というタイトルでどういう曲を書いたのかという思いで聴いたのですが、やはりというか神曲におけるテーマを引っ張っていると感じました。それが顕著だなと思ったのがこの部分。

背丈は語彙を飛び越して 分からずともなお喋れ

ニムロドという素材を持ってくるところや、それを用いて書かれるamazarashiワールド

愚かさも時には強くなる、もしかしたらだけど

が展開されるという不思議な一曲です。

  • かつて焼け落ちた町

 

かつて焼け落ちた町

かつて焼け落ちた町

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

つじつま合わせに生まれた僕等の歌詞を後継している、今のamazarashiだからこその一曲でしょう。歌詞がつばつばとリスナーの耳を切り刻んできます。

花芽吹いて森が茂って、人が増えて集落となってそれを戦火が全部さらって

それに泣いてまた立ち上がって

という大きな視点でみる歴史観的なもの歌詞にしているというのはまさにつじつま合わせの全体に仕掛けられたあの歌詞的であることがわかる。

歴史は繰り返し、土だけがそれを見ている

ここも、通じる部分だし

人と人とが家庭になってそこで僕ら産声を上げて

という言い回しもやはり秋田ひろむ的である。全ての歌詞が良い。とにかく聴けとしか言いようのない楽曲。ロストボーイズに並んで本作における名曲です。

  • アダプテッド

アダプテッド

アダプテッド

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

こういうキャッチャーなフレーズをミニマル的に展開する曲もアバン楽曲同様、これまでにも多々ありました。それらの中でも優れているところはコーラスの差し込み具合。ここまでの決まり合いが決まっている楽曲も久々なのではないか。ベースの動きからも分かる、楽曲自体は手堅いポップソングではあるのにもかかわらず、やっぱり歌詞と展開の仕方をコントロールしきっている。タイトルは直訳で改造、改作。リピートしがちな一曲です。

戸山団地のレインボー

戸山団地のレインボー

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

全体的に「もう一度」だか、これも楽曲的にはこちら圧倒的に良い。

失敗や困難だらけの僕らだから、僕らだけの景色を描けるはずだよな

という歌詞はあんたへにおける

あなたらしい人生ってのはあんたらしい失敗の積み重ね、一つ一つ積み上げては僕等積み木で遊ぶ子供みたい

の変化球と言える歌詞であろう。

虹が架かった。道は繋がった

これはスターライトにおける涙=通り過ぎ駅と同じ効能ですね。

ちなみに戸山団地ってなんじゃろかということでgooglemapで検索をかけたところここの範囲をさすそうです。ちゃんと青森環状線野内線があるのが、地産地消な感じで良いですよね。この曲が作られたのはかなり前だそうですが、それを今になってあらゆる編曲を重ねてだしたことがプラスの作用になったなぁと思います。過去に作っていた曲だからといっても、往々にしてタイミングと編曲で化けるものですし、実際我々が聴いている人気amazarashi楽曲はリリースよりかなり前の段階で書かれているものが多い。

スターライトや隅田川などはその典型だと思う。無編曲版も味があって良いですよ。

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googlemapよりスクリーンショット
アオモリオルタナティブ

アオモリオルタナティブ

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

こんなにチルい音楽をamazarashiで聴くことになるとは思わなかった。しかもそれを青森オルタナティブを敢えてのカタカナというのはダサさもありますが、ラブソングの時代からあるタイトルネーミングだと思えばまぁいいでしょう。本作もまた力強いフレーズがある。

生きている限り何かの途中

であったり

人生変える何かにも始まりはある。それが今日じゃ駄目な理由は一つじゃない

象徴的なのはラストの

僕らはずっと途中

という歌詞でしょうか。

  • 1.0

新たに刻まれたamazarashiの名曲

1.0

1.0

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

もともと、タイトルからして絶対気合いの一曲でしょというのは感じられるわけですが期待にちゃんと応えたくれた。1という数字を「あなた」という言葉と組み合わせるところや、歌詞の語尾を↓で締めてくるのも粋だなぁと思ったり。前回も気合の入った曲でいうと「未来になれなかったあの夜に」とかはまさにそうだと思うのですけど、個人的にこれはタイトルにテーマを出しすぎだと思うんですよね。あの言葉を楽曲の中の歌詞として初めて聴けたらまだよかったが。何がやりたいかをタイトルでバーンと出されては、「仕掛けられた楽曲」でしかない。そういうもどかしさが1.0には一切ない。そしてクオリティもやっぱり抜群。

寄せては返す過去と未来

今作における歌詞の威力ってこれまでにないほど強力だと思うんですよね。

刺さる刺さらないの有無というより「秋田ひろむ」だからこその表現力の集大成という意味で。考察の領域を外した、別概念との突き合わせの感想なんですけど、

友達も学校も家族も社会も恋人も世界との通な狩りが煩わしかった 僕らを縛りつけていた無数の糸は繋ぎ止めるものだった。この世界へと

これ、バックミンスターフラーテンセグリティ構造を音楽の歌詞で表現しましたみたいな感じで好きです。ライブとか行ったことないですけど、そういうタイプの曲ですね。

 

メッセージ性と秋田氏の歌唱の力強さが顕著な楽曲の分、生で聴いたら迫力が凄そう。

  • 空白の車窓から

空白の車窓から

空白の車窓から

  • amazarashi
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

これって散々言われてることだと思うけど全体的にchameleon lifeまで戻ってない?と考えたのは私だけか。4m20s~なんて15とかでも聴いたぞみたいな。「長い夜超えて〜」のところを彷彿とさせる。何が感動的ってそういう時代の音源をamazarashiの、それもアルバムの締めに持ってくるような立ち位置の楽曲として落とし込んだこと。

楽曲的なところだと、15的なギターメインの楽曲でありながら、気がついたら

またな、またな また会えるよな、もう無理かもな もう無理だよな

をあの曲調で聴いているところ。これ秒数てきなところで言うとちょうど半々なんですよね。前半アップテンポで後半がローテンポで、最後またアップテンポに戻るという絶対計算して作られた構造。そして後ろになればなるほど「あ〜これは過去曲でいうあれだ」みたいな一種の歌詞の走馬灯的なものがファンであればあるほど巡ることができると思う。

僕にとって彼は景色で、彼にとって僕は景色で

というのは無題でいう「変わっていくのはいつも風景」というフレーズを想起させる。こういったファンであれば誰でも感じ取れる「この歌詞はあの曲との対比で考えられる」余地を残した歌詞を書いている秋田ひろむの言葉の表現力は凄い。言い換えてみたらこう、という見方としても本楽曲の歌詞として成立しているからだ。

そしてそんな余韻に浸らせてくれた状態でアウトローを締めてくれる。なんて引き際の良い楽曲でしょうか。

 

 

 

総括&その他雑語り

 

以上、七号線ロストボーイズを生煮えな感じの状態であるにもかかわらず書きました。

なぜ中途半端な状態で書いたのかというと、それほど本作が素晴らしかったから。それを共有したいがためにまずは自分の中でのファーストインプレッションを共有したかったためです。そして本作を知らない人はぜひ聴いてください。絶対に損しません。

 

正直な話、このクラスのアルバムを出されては次のハードルがかなり上がります。おそらく本作以上のアルバムは10thアルバム以降にならないと越えられないでしょう。特別視するわけではないがamazarashiは歌詞を重んじるという意味合いのアーティストであるがために、求められる領域というのが少し特異である。しかもそれをメジャーの場でやっているのだから、より高度な作品を出さないとファンもそこまで満足しきれない。初期の棘がありまくりのミニアルバムを出された後ではいかに秋田ひろむといえど厳しいものがあるなかで、これまで今作含め6枚分アルバムを出してきているわけだが、内,3枚は疑いようのない名盤と考えるとやはり7.8.9枚目が中途半端になる可能性のほうが高いように思える。まぁマイナスなことを書いてもしかたないので総括はこの辺で。

 

雑語り

このアルバムの完成度を考えるとあからさまなamazarashi派のフォロワーバンド君であるである某、神様〇〇はどう出るだろうかと考える。意外にもデビューしてから今年で6年という事実あっちはあっちで独自の世界を出して青春脱出速度などの名曲を出しているが、このアルバムをNeruが聴いて(1ファンという視点で考えれば、初日に買って(あるいはストリーミングで聞いて)エッセンスをちょっとでも汲み取ろうとしているに違いないので)どういうアルバムを出してくるかが(1stから今年で3年目なので2ndがそろそろといった時期)楽しみである。まぁバンドフロントマンである彼の作曲がメインになる場合、ちょっと事情は変わってくるが、作曲能力的にはまふまふ<Neruというのは疑う余地がないのでそれはないでしょう。

 

 

 

※本記事は公開以降、自分の中で考えがまとまり次第、記事の体裁をたもつための随時補足・追加します。