今回は別格な品位と歴史を誇り、黄金に輝くストラディバリウスについての紹介・解説記事になります。当然ながら所持しているはずもないので、歴史と成り立ちなどといった背景が中心となっています。
音を説明するというのは難しい&烏滸がましい。楽曲のコードなど基準が明確化されているものならまだしも、音そのものの違いなんて説明できるはずがない。例えば調律をする時に440hzと442hzを比較した時にその違いを400文字で説明しろと言われて満足のいく文章が果たして書けるか?、或いは一度440hzで楽器の調律を合わせてみて欲しい。たった2hz違うだけでも音の聞こえ方は変わる。まずそこが聴き分けできるかどうかという点が一つ、そしてもう一つ、今では大半が442hzで調律するのが当たり前になっているが、440hzで調律をしていた演者が442hzに合わせるように対応するのにはプロの奏者でもかなり苦労するという話もある。つまり音の調節でさえプロでも立ち行かないのに、音の解説なんてもってのほかである。ましてやストラディバリウスの音そのものについての聴き方を紹介しますというのは原理的に不可能である。
仮に所持していたとしてもそんなことをする人はいない。正月特番の格付け番組といったあくまでもバラエティ番組という枠組みでしか成立しえない。なぜそう言えるのか。理由は簡単で学術、技能的にトップであり狂った連中しかいない藝大の凄腕でも判断を見誤る&パガニーニのような天下無類のヴァイオリニストでさえも自分の愛機の贋作(シヴォリ)を作らせた結果と本物との見分けつかない事態を招いた。またそれ以上に弾き手の実力や音が鳴っている環境など、総合的なバランスを考えたら100万のヴァイオリンとストラディバリウスとの聴きわけなど、そうそうできるわけない。ましてや普段ヴァイオリンの音に触れていない人たちなら尚更。こういった部分を抑えているとあれがやらせだろうがなかろうが、そういうところを抜きに格付けチェックのA or Bでやってるいることは茶番にしか過ぎない。
まぁテレビだからできるバラエティ番組なのでこういう真面目なツッコミを本来するべきではないのですが、「敢えて」書かせてもらいました。
・ストラディバリウスの大まかな概要
ストラディバリウス(ストラド)とは、リュータイオであるアントニオ・ストラディバリとその子供たちによって作られたヴァイオリンをはじめとする弦楽器であり、三大名器の一つである。(残り二つはアマティとヴァルネリ)。音楽の好事家であればその名を知らない人はいないだろう。それほどまでに絶妙な設計、隅から隅まで徹底された胴体(ボディ)〜テールピース、パーフリングなどで奏でられるその音はまさに国宝級。弦楽器最高峰の技量をもって作られた楽器であるため、現在個人で所有している人はかなりの少数派であり、大半が団体からの貸し出しになっているほど「希少」である。そんな名器を現在でも「ストラディバリウスをもう一度」という意気込みでさまざまな製作が試みられています。
いきなりストラディバリウスについてのことを書いても概要だけの知識では意味をなさず前後の脈絡を理解していないと楽しめないので、段階を踏まえてた上でストラディバリウスについて紹介いたします。
ではまず最初に名前の区別から。一般的に言われるStradivariusとは当時の慣例にそった時に古代ローマ帝国の共通語であるラテン語表記する必要があり(クレモナという地域は紀元前218年にローマ人によってつくられたことからはじまっているため、古代ローマの共通語のラテン語を当時としては用いることがあった)StradivariをStradivariusとラベルに書いたことから楽器を指す場合「ストラディバリウス」、製作者を指す時を「ストラディバリ」ということになります。
あまりにも前者の名前が定着したせいか、はたまたかっこいいせいか、今では「ストラディバリウスが作ったストラディバリウス」という認識をされているように見受けられます。根本的には間違ってはいないが相手によっては面倒な弦楽器警察の場合もあるのでここで使い道を覚えておきましょう。
ではまずヴァイオリンのがどうしてできたかという点と、如何に突発的な楽器であったかを簡素に紐解いていきます。1500年代の半(最古のものが1564年といわれています)ば北イタリア地方のクレモナで産まれた楽器です。ではここでそれらの大家というべききか、元祖リュータイオとしての役割を果たした人物が
- アンドレア・アマティ(1505-1578)
- ガスパロ・ディ・ベルトロッティ(1540-1609)
この二人がいます。1564年のものが最古だとするアマティが51歳、ベルトロッティが24歳となります。どちらが先かというのはこの場合あまり意味はなく、年季の意味合い、経験値などを考慮してもより優れた、より完成度の高いヴァイオリンを製作することができたのはアマティであるというのは間違い無いでしょう。この二人の関係性に関してはあらゆる説が出ていますがそれらの 真偽はわからないため、この二人で一代目とされています。
では次にアマティがヴァイオリンに施した革命をいくつか挙げます。
・ギターに代表されるフレットを削ぎ落としたこと
・音響箱にアーチングをいれた
・f字型のサウンドホール
まず最初のフレットを削ぎ落としたという点について
フレットの有無と書いてもいまいち想起が難しい人もいると思うので写真を貼ります。
この画像とギターを比較するとわかるようにギターの場合銀色の針金状の横線が入っており、フレットを抑えることで*1音程を取るというのはわかると思います。ヴァイオリンにはそれが*2ありません。基本の形としてフレットを取り除くことによって楽器が奏でられる表現というものが格段に広がったということです。だからこそその後のパガニーニのような悪魔的な技術というのが*3成立するのです。
※因みにパガニーニが愛用したのはグァルネリのカノーネという名器
次に音響箱にアーチングを入れたという点についてですが、流石に楽器を分解することはできないのでこちらの画像をみていただきたい。
これはみた通りで隆起している部位があると思いますが、所謂ここがアーチングを指すヴァイオリン特有の響きにこの中核部位にアーチングの影響もあると考えると非常に画期的なことだと感じます。そしてなんといっても擦弦楽器におけるサウンドホールの形状でf字型にしたことが一番の発明と考えていいでしょう。振動音の出口の形として究極系であり、ヴァイオリンの音をたらしめている最重要の因子かもしれません。実際にそれ以前までの擦弦楽器(ex.ヴィオールという楽器など)との比較をすると以下の画像の通り
以上のことから如何にヴァイオリンが特異的な産物であるか、そしてアンドレア・アマティが偉大であるかが理解できると思います。なによりヴァイオリンが台頭して以降その後の音楽シーンが劇的に変わったことはその後の歴史が証明している。
思えばバッハをはじめ、その後のロマン派の偉大な作曲家などは例外なくヴァイオリンなしには語れない楽曲群を作曲している。知名度的にわかりやすい例をあげるのであればヴィヴァルディの四季のシリーズ(春と冬が好きという典型的な人間)などがまさにそうです。
何気なく聴いているクラシック楽曲の「らしさ」の大半の魅力というのは実はヴァイオリンが買っているといっても過言では無いほどに存分な魅力を詰めた楽曲群であるということはお分かりでしょう。読者の中でも弦楽器の中でも一番の主役はヴァイオリンであると感じている人は多いのではないか。まぁそれはともかくこのアンドレア・アマティの直系の孫にあたるニコロ・アマティこそが三大名器の中核を担う人物になります。なぜならニコロ・アマティとその弟子たちの派生してきた人たちこそがアンドレア・グァルネリ(孫がグァルネリ・デル・ジェス)であり、アントニオ・ストラディバリだからです。ちなみにグァルネリと聴いてシンフォニックメタル/ネオクラシカルメタルのgalneryusを想起した人もいるでしょう。その通りでgaleneryusはヴァルネリに由来しています。フロントマンのsyuがヴァイオリンを弾けることに起因しています。
初めて聴く人向けにはangel of salvationとかがいいですね。技術、楽曲などどれをとっても技巧がとんでもないので知らない人はここで知っておいた方が得ですよ。
おすすめアルバム単位ではULTIMATE SACRIFICEを薦めます。正直英語と日本語が混ざっている歌詞が主流なので、ボーカルの英語発音が気になるところではありますが、やはり全てJapanese Englishにしか聴こえないため、そこで好きか嫌いかが別れるますが(かくいう自分もvo.のJapanese Englishぶりにはダサさを感じます。それをも許容してしまう楽曲が本当に素晴らしい。総合的な歌唱の意味では流石の小野正利なんですけどね)
アントニオ・ストラディバリは16歳〜92歳という間、楽器製作者として活動、生涯で俯瞰した時に作った楽器の数は約3000挺以上。現存するのは1/5の600挺。ヴァイオリンのみならずギターやマンドリンといった楽器も作りました。実際の内訳は明確ではありませんが、3000の内、大半がヴァイオリンで占めており、その数は1000を超える。先述の通りストラディバリの他にも優秀なリュータイオの弟子がいたと考えるのが自然ですが、かならずストラディバリの*4チェックは入ったと思うとやはり異常値です。そんな膨大すぎるストラディバリウスの中でも黄金期に作られた優れた名器が*5 3本あります。これらの名称は基礎知識として覚えておいたほうがいいポイントでしょう。
- ドルフィン
- アラード
- メサイア
他にもメディチ、タスカンやクステンダイク、ダ・ヴィンチなど色々なタイプのストラディバリウスの種類があるのですが一つずつ名前を挙げるとキリがないので知りたい人は個人で調べてください。
・なぜあそこまで高級なのか?
家を数軒売ったとしてもストラディバリは買えないとまで言われるその高さの所以は一体何か。色々な研究がされているからこそ、あれこれ言われているのでそれらに倣って挙げるとまず奏でることによって鳴る音そのものがある。現在造られる楽器よりも「何か」が優れている。それを形容するのは難しいが今を持って再現性がない(なぜないか、という点についても大いに研究されていますが、本項目においてそれらの深掘りする必要性がないのでしません)という点や数百年前、つまりは劇場(オケ)での公演がない、室内音楽が主流だった時代に作られたのにもか関わらず、その後の音楽形態に適応できるポテンシャルを持っていたこと(要約すれば、300年前のものが今でも*6使えるということ)がある。これは他の媒体価値にも言えることでもある。例えば本。本という紙で編集されたそのものには価値はなく、人に読まれて語られていくことで初めて価値が発生するように、或いは映画は観客のそれぞれが受容することによって初めて作品として成立するように、楽器もまた存在しているだけではあまり価値はなく、それが時代を超えてあらゆる*7名プレイヤーによって奏でられ続けている(現代にわかりやすく言えばエイジングとでもいうべきか)。それが自体が奇跡であり、ここにかかる歴史自体はお金では買えないものであることは言うまでもない。尚、製法における木材が〜、ニスが〜といった話は当然把握しているが、あまりにも地味な話になるので割愛します。というよりそこであれこれ言ったところで結局、なぜ高いかは結局「300年前に作られたものに歴史が重なった上に今も現役」ということに集約されることに他ならないから。そして今でも再現が難しいということ自体が、製法を語ることの無意味さでもある。
だからそれをお金で買おうとすれば億単位の値打ちがついて当たり前なのだ。ストラディバリウスと調べるとサジェストで「なぜ高い?」という検索ワードがでるが(ちょっと考えれば分かるだと思ったりますが)その「なぜ」というのは先述の通り(専門家に言わせればもっと具体席のある論拠などがあるだろうが)日本がStradivariusを出品した時、落札値にして12億というのも頷けますね。
最後に、日本でストラディバリウスをどこが所持しているのかが気になったので調べてみたところ以下のような団体・人物の名前がありました。
・誰が(どこの団体が)所持しているのか?(敬称略)
有名どころだけ抜粋してみましたけどざっとこんな感じ。持ってるだろうな〜という団体はともかく、前澤さんもコレクターしているのが意外でした。その他にも子供のゲーム機をバキバキで折ったことでも有名な高嶋ちさ子さんなどが所有しているとのことでした。
日本音楽財団が所有している楽器群はHPに詳細があったので書き出してみました
・ヴァイオリン
ドラゴネッティ/ロード・ニューランズ/ハギンス/エングルマン/カンポセリーチェ
ドルフィン/ヨアヒム/ブース/サセルノ/ジュピター/ウィルヘルミ/サマズィユ/ムンツ
・チェロ
ロード・アイレスフォード/フォイアマン
グァルネリのヴァイオリンも
デル・ジェス ムンツ/デル・ジェス イザイ
の二機と、案外多く所有しているなという印象です。
以上ストラディバリウスについての紹介記事でした。いつもよりは薄味の記事になりましたが意識的です。書き用はもっとあるのですが(クレモナについて、ストラディバリウスの木材云々など)、本当に読みたい部位だけをピックアップしたというのがまず一つ。二つ目に、ここ最近1万字以上の記事が続いたのでそれらよりは各類テキストで収めてみました。(というより、1万字以内で書くことを意識した)年明けの肩鳴らし的な記事とでも思ってください。本命というか、ちゃんとした記事は次にお預けということでお願いします。では次の記事で
参考文献