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Music Synopsis

音楽に思考の補助線を引く Notes on sound, voice, and what remains

久石譲の音楽の魅力 ミニマル・クラシック音楽の視点で解説

久石譲と聞いて、皆さんはどんな音楽を思い浮かべるでしょうか。

『千と千尋の神隠し』の「あの夏へ」でしょうか。あるいは『ハウルの動く城』の「人生のメリーゴーランド」でしょうか。もっと広く知られたところでは、夏の匂いとピアノの反復がほとんど記憶そのものになっている「SUMMER」を挙げる人も多いでしょう。

あの夏へ

あの夏へ

  • 久石 譲
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人生のメリーゴーランド -オープニング-

人生のメリーゴーランド -オープニング-

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Summer

Summer

  • 久石 譲
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ジブリ映画の久石譲。北野武映画の久石譲。コンサートホールでオーケストラを指揮する久石譲。テレビ番組やドキュメンタリーで、映像の奥に静かに流れていた久石譲。人によって入口はかなり違うはずです。

もう少し踏み込めば、NHKスペシャル『人体』シリーズの音楽を思い出す人もいるかもしれません。大林宣彦の『ふたり』に漂う、あのどこか現実と夢の境目が曖昧になるような響きを好む人もいるでしょう。ゲーム音楽としての『二ノ国 漆黒の魔導士』、あるいはアニメーション映画『海獣の子供』のように、一般的な代表作紹介では少し後ろに回されがちな作品群にこそ、久石譲の作家性が濃く出ていると感じる人もいるはずです。 

脳と心BRAIN&MIND

脳と心BRAIN&MIND

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草の想い ~ふたり・愛のテーマ~

草の想い ~ふたり・愛のテーマ~

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二ノ国 漆黒の魔導士 オリジナル・サウンドトラック

二ノ国 漆黒の魔導士 オリジナル・サウンドトラック

  • 久石 譲 & 東京フィルハーモニー交響楽団
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Children of the Sea (Original Motion Picture Soundtrack)

Children of the Sea (Original Motion Picture Soundtrack)

  • 久石譲
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などマイナーな作品が好きな方もいるでしょう今回はそんな名曲を量産し続ける久石さんを作家的に分析してみる記事です。

 はじめに

久石譲の仕事を大きく眺めると、その楽曲提供の場はおおよそ3つに分けられます。

第一に、スタジオジブリ作品の主題歌・劇伴です。『風の谷のナウシカ』(一九八四年)以後、『天空の城ラピュタ』(一九八六年)『となりのトトロ』(一九八八年)『魔女の宅急便』(一九八九年)『もののけ姫』(一九九七年)『千と千尋の神隠し』(二〇〇一年)『ハウルの動く城』(二〇〇四年)へと続く、もっとも広く知られた久石譲像はこのラインから生まれています。久石譲と聞いて、多くの人がまず思い浮かべるのも、おそらくこのジブリ映画の響きでしょう。ピアノ、ストリングス、オーケストラなど。我々が親しみとして感受している久石譲という名前は、ジブリの画面とほとんど不可分のものとして受け取られてきました。

第二に、北野武作品をはじめとする実写映画、そしてジブリ以外のアニメーションやゲーム作品への楽曲提供があります。『ソナチネ』(一九九三年)『HANA-BI』(一九九八年)『菊次郎の夏』(一九九九年)のような北野映画における久石譲はミニマルと前衛がありながらも、確かなメロディラインがある、そんな楽曲が多く生まれました。

さらに、大林宣彦の『ふたり』(一九九一年)、ゲーム作品『二ノ国 漆黒の魔導士』(二〇一〇年)、アニメーション映画『海獣の子供』(二〇一九年)のような作品まで視野に入れると、久石譲の作曲家としての振幅はかなり広く見えてきます。

第三に、CMタイアップ楽曲、テレビ番組、交響曲、コンサート作品、そしてノンタイアップのオリジナル楽曲があります。ここでは、映画音楽家としての久石譲とは別に、作曲家・指揮者・ミニマリズムの書き手としての久石譲が前に出てきます。伊右衛門のcm楽曲『Oriental Wind』はまさにその一例ですね。

Oriental Wind

Oriental Wind

  • 久石譲
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ただ、どうしてもジブリというコンテンツの存在が巨大であるため、久石譲の音楽は「ジブリの名曲」として語られがちです。もちろん、それ自体は間違いではありません。実際、ジブリ作品における久石譲の仕事は圧倒的です。しかし、その印象があまりにも強いことで、実写映画、CM、テレビ、ゲーム、ジブリ以外のアニメーション、コンサート作品における久石譲の仕事は、相対的に語られにくくなっています。

基礎として押さえておきたいミニマルミュージック

・基礎として押さえておきたいミニマル音楽の概要

久石譲を作曲家として形容するとき、「ミニマル・ミュージック」は大前提にあります。

では、まずミニマル・ミュージックとは何かを説明します。簡単にいえば、パターン化された音型を反復する音楽です。勘のいい方はすでに気づかれたかもしれませんが、この「ひたすら繰り返す」技法を先駆的に扱った人物の一人が、『ジムノペディ』三部作でお馴染みのエリック・サティです。

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エリックサティ(1886~1925)
ジムノペディ第1番

ジムノペディ第1番

  • エリック・サティ
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ジムノペディ第2番

ジムノペディ第2番

  • エリック・サティ
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ジムノペディ第3番

ジムノペディ第3番

  • エリック・サティ
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 劇場版『涼宮ハルヒの消失』や『ぼくのなつやすみ2』などでも劇伴として引用されるなど、映画には馴染み深い楽曲の一つでもあります。

 

ざっくり理解するために、まずはわかりやすさという意味で、ミニマルといえば基本的にこの『ジムノペディ』を想像していただければ、入口としては間違いないです。

少し脱線しますが、サティの影響は、その後、印象派と呼ばれる人たちにも継承されます。その代表格が、『月の光』『アラベスク』『亜麻色の髪の乙女』などで知られるクロード・ドビュッシー(1862-1918)です。機能和声からの脱却を果たした人物ですね。この時期の音楽を、一般に印象音楽と言います。

ベルガマスク組曲: 月の光

ベルガマスク組曲: 月の光

  • フランソワ・ジョエル・ティオリエ
  • クラシック
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ドビュッシー: アラベスク第1番

ドビュッシー: アラベスク第1番

  • フランソワ・ジョエル・ティオリエ
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前奏曲集 第1巻: 亜麻色の髪の乙女

前奏曲集 第1巻: 亜麻色の髪の乙女

  • フランソワ・ジョエル・ティオリエ
  • クラシック
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そして、この反復を用いた実験音楽・前衛音楽を手掛ける作曲家が、その後たくさん現れます。

その先鋒にいたのがジョン・ケージです。そこからテリー・ライリー、スティーヴ・ライヒ、ラ・モンテ・ヤング、フィリップ・グラスなどが後に続きます。

では、まず手ならしとして、各人がどういった音楽作家であったのかを紹介します。

ジョン・ケージ

4'33''

4'33''

  • ジョン・ケージ
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この人の音楽で一番知られているのは、『4′33″』(一九五二年)でしょう。4分33秒、ひたすら無音というあれです。これを音楽と呼ぶか否か、また、この作品が音楽史上どういう意味を持つのかは別の機会に回すとして、そんな人が他にどんな音楽を作っているかというと、『Bacchanale』(一九四〇年)であったり、『In the Name of the Holocaust』(一九四二年)であったりするのですが、ミニマリズムというよりは実験音楽としての性格が強いですね。

ただ、ヴェーベルンのフォロワーとして見ると、ラ・モンテ・ヤングなどにもつながっていくので、ミニマル音楽の歴史を語る上では外せない存在です。この人が開拓した実験的なアプローチは、久石さんも相当影響を受けています。

Imaginary Landscape No. 5

Imaginary Landscape No. 5

  • ジョン・ケージ & ランガム リサーチ センター
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ラ ・モンテ・ヤング

概念上、ミニマルの生みの親とされている彼の音楽は、基本的にギターの弦を鳴らし、そこにちょっとしたメロディが付加されていくようなものです。元来、ミニマルにある刺激的な高揚感が、今では環境的な音楽と化している。たとえば『The Well-Tuned Piano』(一九六四年)は、どこを聴いても「同じメロディ」を反復しているだけのように聴こえます。

つまり、奏者が楽器の音出しをする感覚に非常に近い。そういったちょっとした「音出し」的なものをひたすら繰り返すラ・モンテ・ヤングも、ケージ同様、20世紀前衛音楽の旗手の役割の一端を担っていたアントン・ヴェーベルン的な音楽から学んだのではないかと推測します。

ヴェーベルンの場合、『Six Bagatelles for String Quartet, Op. 9』(一九一三年)あたりに、ミニマルらしさをうかがうことができます。まぁここら辺は、当時からすれば基礎レベルだったので書くまでもないですが。余談ですが、アントン・ヴェーベルン、ケージ、これらに共通するものは、すべてシェーンベルクへ帰結したりします。まぁ、それほどドデカフォニー、つまり十二音技法が強烈だったというだけの話ですけれども。これも長くなるので、ここでは自重します。

A Bonnie Lassie

A Bonnie Lassie

  • Don Bartlett
  • トラディショナル・ケルト
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テリー ・ライリー

我々がドラッグ映像などで想像するような音楽。つまり、電子オルガン的なメロディと、ゲームサウンド的な音の崩しが象徴である。『A Rainbow in Curved Air』(一九六九年)を聴けば、一目瞭然ならぬ一聴瞭然。明らかに「俺の音楽を聴け」と言わんばかりの音の展開です。様々な鳴らし方で展開していく様は、教会音楽におけるオルガンのそれとはまったく違う。クラヴィコード的なサウンド性を取り込んだこの楽曲の新鮮さが、その後に大きな影響を与えたのは想像に難くない。おそらく、ミニマルの枠を超え、とりわけプログレへの影響が大きいと筆者は考えます。

A Rainbow in Curved Air, for electric piano, dumbak & tambourines

A Rainbow in Curved Air, for electric piano, dumbak & tambourines

  • テリー・ライリー
  • クラシック
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A Rainbow in Curved Air, for electric piano, dumbak & tambourines

A Rainbow in Curved Air, for electric piano, dumbak & tambourines

  • テリー・ライリー
  • クラシック
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『Poppy Nogood and the Phantom Band』(一九六九年)は、ピンク・フロイドの『Atom Heart Mother』(一九七〇年)的ともいえる音楽です。

Atom Heart Mother

Atom Heart Mother

  • ピンク・フロイド
  • ロック
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21分という長編は、最初こそオルガンテイストですが、途中からおそらくソプラノサックスが介入し、メロディを奏でる構成になっています。この流れを見ると、コルトレーンの流れ、時代的に考えると『Giant Steps』(一九六〇年)あたりを汲んでいるのは間違いない。というか、モードジャズ期の連中、マイルス・デイヴィスやコルトレーンがあまりに強烈すぎるというお話です。ジャズの話はいずれジャズ史の時に語りますので、気になる人はそちらを待ってください。

『In C』(一九六四年)は、ハ調の音階すべてが鳴り響く音楽です。音がどんどん重なり合っていく。シャトルランの音楽がどんどん早くなるあの感じが、一音一音ずつ重なっていくといえばイメージしやすいでしょう。こちらは趣向的な意味で、ミニマルの礎を築いた一曲であると思います。

スティーヴライヒ

『Six Pianos』(一九七三年)は、70年代に作曲されたものだが、曲というより、一つのフレーズを反復するだけの楽曲であることから、明らかにミニマルサウンドと見て差し支えない。もっとも、『It’s Gonna Rain』(一九六五年)という、ある種のドラッグソングをすでに1965年に書いていたライヒは、ミニマルのオリジネーターの一人である。

ちなみに筆者は、いわゆる四傑と評されている「ヤング、ライリー、ライヒ、グラス」の中では、ライヒが一番気に入っている作家である。ストラヴィンスキーとかチャーリー・パーカーとか好きなんだろうな、という感じがたまらないです。

Steve Reich: Six Pianos - Terry Riley: Keyboard Study No. 1

Steve Reich: Six Pianos - Terry Riley: Keyboard Study No. 1

  • Various Artists
  • クラシック
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Keyboard Study No. 1

Keyboard Study No. 1

  • Gregor Schwellenbach & Lukas Vogel
  • クラシック
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フィリップグラス

一九七六年に初演を果たした『浜辺のアインシュタイン』で有名です。

どちらかというとオペラや協奏曲を手がけることが多いため、先述してきた作家たちが書くようなソロ音楽はあまりありませんが、『浜辺のアインシュタイン』(一九七六年)を聴くだけで、その音楽性がミニマルを踏んでいることはわかります。

個人的な一押しはこちら。『Glass: The Photographer』(一九八二年)の「The Photographer: “A Gentleman’s Honor”」です。

Glass:  The Photographer

Glass: The Photographer

  • マイケル・リースマン, Paul Zukofsky & The Philip Glass Ensemble
  • クラシック
  • ¥1630
The Photographer:

The Photographer: "A Gentleman's Honor"

  • マイケル・リースマン, The Philip Glass Ensemble & Paul Zukofsky
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  あらゆる楽器で繰り返しを試している。一九八三年と、プログレも落ち着いた時期ではありますが、この手のサウンドは珍しい。というか、ミニマルでありつつ情緒が表現されていることが、自分がこの作品を好きな理由かなぁと思います。

なんというか、『ゲーム・オブ・スローンズ』シーズン6第10話の「Light of the Seven」に近い恐ろしさがある。

Light of the Seven

Light of the Seven

  • ラミン・ジャワディ
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ワイルドファイアと呼ばれる鬼火で、ハイ・スパローやマージェリーを教会ごとぶっ飛ばすという、サーセイの悪魔的な所業のために作られた音楽です。余談ですが、「Light of the Seven」は曲としても優れていますが、この音楽は映像ありきなので、どれほど爽快でありながら悪魔的な音楽かを知りたい人は、『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズン1からシーズン6まで見てください。最終章は面白くないので、別に見なくてもいいです。

以上の作家たちが、ミニマル史における重要人物です。ただ、そんな彼らの音楽手法にも、バルトーク、ドビュッシーの全音音階、パガニーニの悪魔的な技巧で作曲された『24の奇想曲』(一八二〇年)などからの影響を感じられます。そう考えると、やはりクラシックに分類される作家は偉大だなと思ったりします。

 

番外編『オスティナート』

このジャンルは、オスティナートという意味合いからもわかるように、「執拗」に繰り返す、まさにミニマル音楽の原点というべき音楽体系です。

一般的にどういった楽曲を指すのか。これは説明するまでもないと思いますが、代表格はなんといってもグスターヴ・ホルストの『火星、戦争をもたらす者』(一九一四年)でしょう。ホルストの組曲『惑星』(一九一四〜一九一六年)がどのような作品かは、以下の記事を参照してください。

ホルスト: 組曲《惑星》作品32 火星―戦争の神(戦争をもたらす者)

ホルスト: 組曲《惑星》作品32 火星―戦争の神(戦争をもたらす者)

  • ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 & ジェイムス・ジャド
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あとは、基礎練習でお馴染みのバルトーク作曲『ミクロコスモス』(一九二六〜一九三九年)も、典型的なオスティナートです。超絶かっこいいです。

Mikrokosmos - Progressive piano pieces - Volume VI - Six dances in Bulgarian rythm

Mikrokosmos - Progressive piano pieces - Volume VI - Six dances in Bulgarian rythm

  • コルネル・ゼンプレーニ
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枝としてのミニマルが印象派の音楽性であるならば、幹としてのオスティナートは、恐怖・破壊的なテーマを持つ曲が多いように見られます。

さて、ここでオスティナートの作風を満遍なく使い、国民的音楽を作った日本人作家といえば伊福部昭です。そう、誰もが知るオスティナート日本曲とは、『ゴジラ』(一九五四年)のメインテーマです。誰しもが何気なく聴いていたあのメロディ。実は、音楽史をしっかり踏んだ技法があるからこその説得力ということです。

メインタイトル(M2+M1)

メインタイトル(M2+M1)

  • 伊福部 昭
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ちなみに、緊急地震速報のチャイムを作ったのは伊福部達で、彼は伊福部昭の甥にあたります。『ゴジラ』のメインテーマで日本の怪獣映画にオスティナートの強烈な身体感覚を刻み込んだ伊福部昭。その血縁にある人物が、今度は現実の災害情報の音を作っているというところが、なんとも言えない感じになります。

 

あのチャイムの作曲にあたって参考にされたのが、伊福部昭の『シンフォニア・タプカーラ』第3楽章「Vivace」の冒頭部です。つまり、「ゴジラの音楽」と「緊急地震速報の音」は、直接同じ旋律というより、伊福部昭的な緊張感、反復、切迫した和音感覚を媒介にしてつながっている。あの音がただ怖いのではなく、瞬間的に身体を起こさせるように響くのは、伊福部昭の音楽がもともと持っていたオスティナート的な圧力と無縁ではないと思います。

シンフォニア・タプカーラ 第3楽章 Vivace

シンフォニア・タプカーラ 第3楽章 Vivace

  • アンドレア・バッティストーニ & 東京フィルハーモニー交響楽団
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まぁ、それはそれとして、こうしてできた流れの音楽に、国立音楽大学作曲科在学中の久石さんは影響を受けます。

『A Rainbow in Curved Air』(一九六九年)を聴いてミニマル作家になったと言われるほどですから、特に色濃く影響を受けているのはライリーでしょう。実際には、ライヒの影響もかなり大きいのではないかと思ったりしますが。

あと、ミニマルの提唱者としてジョン・アダムズも入ってきますね。

Hallelujah Junction

Hallelujah Junction

  • Maarten van Veen & Ralph van Raat
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それでは前置きはこの辺りにして次は久石譲の音楽群に潜むミニマリズムを探っていきましょう。

ミニマル視点から見る久石音楽

『Clifside Waltz III』──『あの夏、いちばん静かな海。』(一九九一年)

Clifside Waltz III

Clifside Waltz III

  • 久石 譲
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これは明らかにサティを意識していますよね。『Clifside Waltz III』というタイトルから察せるように、当然IとIIもあります。三部構成も含め、ここまでちゃんとオマージュしています。

 『Sonatine I ~act of violence』  (sonatine)

Sonatine I - Act of Violence (Sonatine)

Sonatine I - Act of Violence (Sonatine)

  • 久石 譲
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裏打ちで鳴っているピアノメロディは、マイク・オールドフィールドの『Tubular Bells』(一九七三年)の系譜にあると思います。

Tubular Bells, Pt. 1

Tubular Bells, Pt. 1

  • マイク・オールドフィールド
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『SUMMER』──『菊次郎の夏』(一九九九年)

Summer

Summer

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今や夏の定番楽曲となった、久石譲の代表曲『SUMMER』。この曲は、ミニマル楽曲としてあまりに傑作ですね。

上の原曲も十二分に楽しめますが、劇伴という側面を強く感じてしまい、「曲」として見たときには、いくぶん表現に物足りなさがあります。その後作られた数あるバージョンの中で、私が劇伴としてではなく、曲として楽しめるのが『Essential』版です。

Summer

Summer

  • Joe Hisaishi
  • クラシック・クロスオーバー
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YOUTUBEの公式動画にも上がっているの是非聴いてください。


Joe Hisaishi - Summer

 

 

『Bus Stop』 (あの夏、一番静かな海。)

Bus Stop

Bus Stop

  • 久石 譲
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木琴主体で、バックをピアノなどが支える構造は、久石音楽印というか、久石節といってもいいほど聴き手には定着していると思いますが、それらもおそらくミニマル音楽からの着想です。

先ほど、久石音楽にもっとも影響を与えたのは、実はライリーではなくライヒではないかと書きましたが、そう思う最大の理由はこの曲にあります。

『Music for a Large Ensemble』(一九七八年)

Music for a Large Ensemble

Music for a Large Ensemble

  • Steve Reich Ensemble
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どうですか。クレジットを隠して聴けば、「作曲:久石譲」と言われてもまったく違和感がないほど、久石サウンド節の一つの源流になっています。

 

『Kids Return』──『キッズ・リターン』(一九九六年)

Kids Return (Kids Return)

Kids Return (Kids Return)

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この音楽は、珍しくギターが乱入してきたり、主旋律が琴だったりと、和風とロックがごた混ぜになった曲なんですけれども、これも展開としてはミニマルですね。

『SUMMER』同様、この曲も「映画」としての音楽で聴くなら原曲でもいいのですが、これをリテイクというか、アレンジしたバージョンのほうが、単曲として見たときに楽器の表現が重厚になっているのでおすすめです。

なんというか、弦楽器の強さを感じるからこそ、余計に曲における一音に重みがあります。

Kids Return

Kids Return

  • 久石 譲
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弦楽器、というかこの場合はチェロとピアノの組み合わせっていいですよね。

原曲アレンジの魅力というのは、本来こういうものだと実感します。

 

『海獣の子供』OST──『海獣の子供』(二〇一九年)

Children of the Sea (Original Motion Picture Soundtrack)

Children of the Sea (Original Motion Picture Soundtrack)

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今作は、久々にミニマルに徹した作品なので、定着した久石音楽というよりは、緩急ある変化球と言える作品です。どれも素晴らしいですが、この5曲はサントラの枠を超えた凄さがあります。アンビエントも少し入り混じっているし、志向そのものに惹かれます。

宇宙の記憶

宇宙の記憶

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「嵐の中のふたり」なんかは実験音楽ですね。

嵐の中のふたり

嵐の中のふたり

  • 久石 譲
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「光る夜の海へ」は、『In C』(一九六四年)的です。つまり、だんだんと音が重なり合っていくという、ライリーが開拓した道に通ずるところがあります。

光る夜の海へ

光る夜の海へ

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「宇宙の誕生」は、その名に恥じない壮大さと、華麗な音の混じり合いが素敵です。あと、やっぱり宇宙なので、ホルストの組曲『惑星』(一九一四〜一九一六年)的とも言える。

組曲《惑星》作品32 木星 -快楽をもたらすもの

組曲《惑星》作品32 木星 -快楽をもたらすもの

  • ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 & ヘルベルト・フォン・カラヤン
  • クラシック
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宇宙の誕生

宇宙の誕生

  • 久石 譲
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「生命の理由」と「生命の繋がり」は、セットで聴いた方がいいですね。

特筆すべき点は、「生命の繋がり」の後半です。ストラヴィンスキー的というか、ホルストの『火星、戦争をもたらす者』(一九一四年)的というか、ミニマルというより、広義の繰り返し技法としてのオスティナート的な響きがあります。

生命の理由

生命の理由

  • 久石 譲
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生命の繋がり

生命の繋がり

  • 久石 譲
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ミニマル作家としての音楽 ムクワジュアンサンブル

最後に、あまり知られていない久石音楽として、ムクワジュ・アンサンブルについて触れておきます。

一九八一年、久石さんはムクワジュ・アンサンブルというグループを結成し、アルバム『MKWAJU』(一九八一年)を発表します。これがジブリに参加する2、3年前というのも、なかなか熱いですね。

私が思うに、この作品は久石音楽の一つの解答を出した作品と言ってもいいと思います。特に「Pulse In The Mind」なんかは、現代音楽やミニマルの中で生きてきた久石さんが作り上げた、極上の一品だと思います。

というか、最近ヤバいでおなじみのPuhyunecoのakaneのルーツも、結局この辺り、つまりミニマルと現代音楽の境目にあるのではないかと思ったりします。長谷川白紙は、それをもう少しメジャーな存在にした感じですね。

「Flash-Back」なんかは、それこそジョン・ケージ的なアプローチで、ひたすら太鼓が鳴っているだけなのですが、そこに魅力を感じてしまう一曲です。

脱線しますけど、既存作家を例に捉えるなら、坂本龍一のソロアルバム的とでも言いましょうか。「A Wongga Dance Song」(一九八〇年)とか、その辺りです。この曲は、シーケンスが全盛の時代に作った感があって面白いですね。

A WONGGA DANCE SONG

A WONGGA DANCE SONG

  • 坂本 龍一
  • J-Pop
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話を戻しましょう。ミニマル作家としての一つの到達点といっていいアルバムなのにituneにはMKWAJUしかないという悲しさ;;

MKWAJU

MKWAJU

  • 久石譲 アンサンブル
  • クラシック・クロスオーバー
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そしてMKWAJUを聴けば伊右衛門のcmでおなじみのあの名曲の前身となっているのは明白であります。この曲、cmの枠に止まるには惜しいほど傑作なので未聴の方は絶対聴いてください。

Oriental Wind

Oriental Wind

  • 久石 譲
  • クラシック・クロスオーバー
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話を戻しましょう。

ミニマル作家としての一つの到達点といっていいアルバムなのに、iTunesには『MKWAJU』しかないという悲しさ;;

そして、『MKWAJU』を聴けば、伊右衛門のCMでおなじみのあの名曲の前身となっていることは明白であります。この曲、CMの枠に止まるには惜しいほどの傑作なので、未聴の方は絶対に聴いてください。

この曲にもいろいろなバージョンがありますが、オケとピアノのバランスが取れている点などから、私はこのバージョンに落ち着きます。

脱線。

あと、サントリーはいい加減、「伊右衛門 新テーマ曲」を音源化するべき。

まぁ、今やっているCMの音楽に高木正勝さんを引き継ぎで投入しているのは、1000%すぎる正解なので、サントリーは作家の持つ技量を汲んで起用している。その姿勢は、さすがです。

www.youtube.com

 高木正勝さんの特集はいずれやります。が、ここで数曲紹介しておくと、「きときと」「熱風」は、誰もが認めるメロディアスな秀作です。

熱風

熱風

  • 高木正勝
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きときと - 四本足の踊り

きときと - 四本足の踊り

  • 高木正勝
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ちなみに「熱風」は、『夢と狂気の王国』というジブリのドキュメント映画に使われている曲です。だからこそ、タイトルが「熱風」=ジブリというのが、個人的に泣けるなと思うところです。

高木さんは、一作品ぐらいジブリに楽曲提供しても、久石音楽とは違う路線で絶対に外さないと思うので、いつか本編でコラボしかないかなと思ったりします。

閑話休題。

では次に、クラシックとしての側面を探っていきます。

クラシックから読み取る作家性

・クラシックの側面から見た久石音楽の源流

音楽の授業などでも、「古典派」「バロック」「ロマン派」といった言葉を目にすることは多いと思います。

その中でも、ロマン派の作家で、久石音楽に強い影響を与えていると思われる作家が2人います。現代における「かっこいい音楽」の源流は、大体ロマン派にありますが、久石音楽を考える上でもここはかなり重要です。

それぞれの代表曲を見ていきます。

 
 
ワーグナー:ワルキューレの騎行

ワーグナー:ワルキューレの騎行

  • ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
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・アントニン・ドヴォルザーク

『交響曲第9番「新世界より」』(一八九三年)などで有名な作曲家です。

Symphony No. 9 in E Minor, Op. 95, B. 178

Symphony No. 9 in E Minor, Op. 95, B. 178 "From the New World": IV. Allegro con fuoco

  • ウィーン・フィルハーモニー & ヘルベルト・フォン・カラヤン
  • クラシック
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リヒャルト・ワーグナー、アントニン・ドヴォルザーク。このあたりは、まったく聴いたことがない人はいないほどの名曲を作り上げた巨匠です。

では、具体的にどういったところに影響を垣間見ることができるのか。

「波の魚のポニョ」──『崖の上のポニョ』(二〇〇八年)

フルで聴いていただかないとわからないのですが、試聴だけでもテイストがワーグナーであることは一聴瞭然です。

波の魚のポニョ

波の魚のポニョ

  • 久石 譲
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まぁ、この曲が『ワルキューレの騎行』(一八五六年)に寄せているのは、『崖の上のポニョ』を構想している時に宮崎駿さんが流していたという裏話があるので、作家性云々というより、オーダーに寄せた感じがあります。

とはいえ、作品がワーグナー的テイストの音楽で作られていることに違いはないので、例として挙げます。

 

さて、アントニン・ドヴォルザークの音楽がどう影響を与えているかなんですが、これは「ほぼトレース」したといっていいほど、弦楽器系の楽曲はドヴォルザーク的です。

「人生のメリーゴーランド」──『ハウルの動く城』(二〇〇四年)

Merry-Go-Round(人生のメリーゴーランド)

Merry-Go-Round(人生のメリーゴーランド)

  • Joe Hisaishi
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

これなんて、久石さんからすれば「引用元は当然わかるよね」と言われているようなもので、ある程度クラシックを愛好していれば、サビのメロディから察しがつくはずです。

では、ドヴォルザークの『交響曲第8番』(一八八九年)第3楽章を聴いてみましょう。

交響曲 第8番 ト長調 作品88 第3楽章: Allegro grazioso

交響曲 第8番 ト長調 作品88 第3楽章: Allegro grazioso

  • ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 & ラファエル・クーベリック
  • クラシック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

そして、この第3楽章を聴いてピンとくる楽曲があると思います。

そう、「Cinema Nostalgia」です。

Cinema Nostalgia

Cinema Nostalgia

  • 久石 譲 & Orchestra Città di Ferrara
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

余談ですが、金曜ロードショーといえば、このOPで始まり、髭のおじさんが映写機を回している映像の時代が好きだった方も多いでしょう。あの映写機を回すアニメーションをジブリのアニメーターが作成し、音楽を久石譲が担当していたという、ほぼジブリ状態と言っていいものです。

閑話休題。

 cinema nostalgiaから読み解く 映画音楽性

この「Cinema Nostalgia」の弦楽器の運び方や緩急の付け方は、アントニン・ドヴォルザークの『交響曲第8番』第3楽章の後半を聴けば、誰でも「なるほど」と手を打つと思います。少し懐かしさを帯びた舞曲性。あの感じは、かなりドヴォルザーク的です。それと同時に、若干グスタフ・マーラーも入っているような気もしますが、全体の作風はやはりドヴォルザークを踏襲しています。

しかし、それだけで「Cinema Nostalgia」の格式高い感じになるかといえば、そこは否です。

ドヴォルザーク的な弦の運びは、あくまでクラシックとしての品格を作っている。けれど、「Cinema Nostalgia」が金曜ロードショーのOPとして成立しているのは、そこに映画音楽としての匂いがあるからです。スクリーンに光が差し、フィルムが回り、これから物語が始まるという高揚感。あの「映画館へ入っていく感じ」は、クラシックの構造だけでは出てこない。

では、その映画の劇伴たり得る要素はどこからの影響かといえば、ニーノ・ロータしか考えられません。

ニーノ・ロータは、マフィア映画の金字塔と言われている『ゴッドファーザー』(一九七二年)のメインテーマを作曲した偉大な作曲家です。その音楽がこちら。

※『ゴッドファーザー』という映画を見たことがない人は、こんな三文記事を読む前に三部作を見た方が圧倒的に得なので、即座にブラウザバックして見てきてください。

ちなみに筆者は、『ゴッドファーザー』シリーズでは『ゴッドファーザー PART II』(一九七四年)が一番好きです。

ゴッドファーザー - 愛のテーマ(『ゴッドファーザー』より)

ゴッドファーザー - 愛のテーマ(『ゴッドファーザー』より)

  • シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニック・オーケストラ
  • サウンドトラック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

この音楽から読み取れる、イタリアを想起させるテイストこそが、「Cinema Nostalgia」の深みを出していると思います。

ニーノ・ロータ的な音楽は、当然この一回きりというわけではありません。『風立ちぬ』(二〇一三年)のOSTなどにも顕著です。

たとえば「旅路(妹)」は、いかにもニーノ・ロータ的な「イタリア」を意識した音楽です。旋律の運び、弦の甘さ、少し古いヨーロッパ映画のような匂い。そうした要素が、『風立ちぬ』という作品の時代感ともよく噛み合っています。

「カストルプ」なんかは、「A New Carpet」系統と言っていいでしょう。どこか軽妙で、洒落ていて、しかし不穏さも残る。そういう映画音楽としての温度感が、かなりニーノ・ロータ的です。

旅路(妹)

旅路(妹)

  • 久石 譲
  • サウンドトラック
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カストルプ(魔の山)

カストルプ(魔の山)

  • 久石 譲
  • サウンドトラック
  • ¥255
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A New Carpet

A New Carpet

  • Carmine Coppola
  • サウンドトラック
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  • provided courtesy of iTunes

 

また、『おくりびと』(二〇〇八年)の「Departures」の前半、3:24〜4:36あたりは、完全にグスタフ・マーラーを意識しています。

このように、オーケストラ作品は辿っていくと、影響元が非常にわかりやすいです。セオリーに則っているからこそ、どこから来ている音楽なのかが見えやすい。


Joe Hisaishi - Departures

交響曲 第5番 嬰ハ短調/第4楽章:アダージェット;きわめて遅く

交響曲 第5番 嬰ハ短調/第4楽章:アダージェット;きわめて遅く

  • ロンドン交響楽団 & ルドルフ・シュワルツ
  • クラシック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

他にも、クラシックからの影響は当然あります。イーゴリ・ストラヴィンスキー、ベラ・バルトーク、ヨハネス・ブラームスなどですね。そもそも久石さんは国立音楽大学の作曲科に在籍していた方なので、これらは基礎教養として当然知っているでしょうし、楽曲にも生かしていると思います。

ただ、素人の私がこれ以上の領域、つまりクラシックに分類される作曲家群に足を踏み込むと、それこそヨハン・ゼバスティアン・バッハやアントニオ・ヴィヴァルディまで遡ることになります。そこには専門的な知識が必要になるので、これ以上深い考察をしたい場合は、各自で行ってください。

アウフタクトの頻用

今さら書くことでもありませんが、聴き手が思う久石譲の音楽らしさは、このアウフタクトにあったりします。

この技法が使われている楽曲で最も有名なのが、『トルコ行進曲』や『エリーゼのために』です。

トルコ行進曲

トルコ行進曲

  • イリーナ・メジューエワ
  • クラシック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes
エリーゼのために

エリーゼのために

  • イリーナ・メジューエワ
  • クラシック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

どちらも、曲が第1拍に入る前から始まっていますね。

久石楽曲を例に挙げると、以下のような曲が該当します。

「Angel Springs」

Angel Springs

Angel Springs

  • Joe Hisaishi
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

「Ballade」

Ballade

Ballade

  • Joe Hisaishi
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
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「Nostalgia」

Nostalgia

Nostalgia

  • Joe Hisaishi
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
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これらはほんの一部であって、他にも『風の谷のナウシカ』(一九八四年)のオープニングであったり、「人生のメリーゴーランド」や「SUMMER」など、代表曲といって差し支えない曲には、大体取り入れられています。

若干マイナーな曲ではありますが、他にも「Highlander」「EVE - Piano Version」「マルコとジーナのテーマ」と、数々の作品にアウフタクトが入っています。

以上、紹介してきたように、久石譲の音楽性は、作家としての基礎であり音楽制作の源流となったミニマル、古典としてのクラシックを踏襲した要素、そしてアウフタクトのような一種の調味料が重なることで現れているのだと思います。

Highlander

Highlander

  • 久石 譲 & Pan Strings
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
EVE-Piano Version

EVE-Piano Version

  • 久石 譲
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
マルコとジーナのテーマ

マルコとジーナのテーマ

  • 久石 譲
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

最後に

最後に

本編に記載していないだけで、他にも久石さんが影響を受けた作品はありますが、おそらく核となっている部分は、本記事で紹介しきれたと思います。

そもそも、久石譲の本名は藤澤守であり、「久石譲」という名前はクインシー・ジョーンズ、つまりマイケル・ジャクソン作品のプロデューサーでもある人物の名前を捩ったものである。そういった当たり前の話を省いた上で、今回はいろいろと書いてきました。

その中で感じたのは、初期こそ芸術音楽系に傾倒していた久石譲の音楽が、だんだんとポップスへ近づいていく遍歴をなぞれたことです。

多分、それはブライアン・イーノに走ったあたりから推察できる。イーノ周辺の人たちの台頭というのは、音楽史的に見てもやはり異質です。それこそアンビエント、つまり環境音楽の方向へ進路を変えた影響力は大きい。芸術的なアプローチでありながら、単なるミニマルの形でもあり、電子的でもあり、グラムロックを踏襲しつつ新規開拓をした音楽でもある。

「2/1」とかは名曲です。

2/1

2/1

  • ブライアン・イーノ
  • エレクトロニック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
2/2

2/2

  • ブライアン・イーノ
  • エレクトロニック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
1/1

1/1

  • ブライアン・イーノ
  • エレクトロニック
  •  
  • provided courtesy of iTunes
1/2

1/2

  • ブライアン・イーノ
  • エレクトロニック
  •  
  • provided courtesy of iTunes

だからこそ、『Silent Love(Main Theme)』(一九九一年)を書けたのだと思います。

Silent Love (Main Theme)

Silent Love (Main Theme)

  • 久石 譲
  • サウンドトラック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

ミニマル作家という基盤は揺るがない。そこからクラシック、アンビエント、ポップスと、あらゆる楽曲を手がけてきたのは本当にすごいと思います。

それは、作曲科で本格的に勉強をしたというだけでは説明できない何かがあるからでしょう。これを単に才能だとか、天才と言うのは簡単ですが、今回あらためて音源を通して聴いていく中で、その積み重ねの凄さがよくわかりました。

 

冒頭にも書きましたが、世間的にはジブリの影響の大きさもあって、「ジブリアニメの音楽」としての久石譲は非常によく愛されています。しかし、非ジブリコンテンツへ提供した音楽が語られることは、あまりないように思います。

それは、音楽好きとしてはあまりにも勿体ないです。

作品単位でアプローチの違う久石楽曲には、ジブリ的なサウンドとは別の魅力があります。というよりも、北野武映画に提供している楽曲群の方が、ジブリ音楽より色々と多様である。

「あの夏へ」よりも明るく、作家性に寄り添った「SUMMER」や、北野武映画『HANA-BI』(一九九八年)のメインテーマ「HANA-BI」、エンディングテーマに該当する「Thank You, ... for Everything」など、様々な楽曲がありますので、ぜひ聴いてください。

実は、宮崎×久石よりも、北野×久石の組み合わせの方がしっくりくる。これに関しては、明確な理由があります。

まず、北野武の初監督作品『その男、凶暴につき』(一九八九年)の段階で、北野武が、ミニマル音楽こそ自分の映画を彩る音楽であるということを明確に提示しているからです。

先ほど紹介したエリック・サティの『グノシエンヌ』を、一種のパロディ的に和風タッチでリアレンジした楽曲が、ある種の決めの音楽となっています。

(エンドクレジットでサティ表記はありませんが)

つまり、この路線で映画を撮っていくのであれば、しっかりとしたミニマル音楽を作らなければならない。そう考えると、そちらを専門としていた久石譲しか専任できる人がいなかった。

これは間違いないと思います。

当然、北野武のフィルモグラフィー上、途中から音楽の方向性は変わっていきます。しかし、今から振り返った場合、重要な作品のほぼすべてを久石譲が担当していることからも、この組み合わせがいかに偉大であったかは明白であります。

そして、それがもたらした劇伴群は、ある種、ジブリ映画の劇伴以上に偉大であると言える。

再三にはなりますが、元を辿れば、久石譲はミニマル音楽出身の人間です。だからこそ、北野武作品で要求される楽曲性の方が、久石譲にとって本流であることは間違いない。

当然、手幅が広いからこそ、ジブリでもあれだけの名曲を出してきたわけです。ただ、ジブリ音楽の多くは、クラシックを起点とするオーケストレーションものとして代表されやすい。そのため、ミニマル作家としての久石譲だからこそ出せる音楽性は、ジブリ劇伴では相対的に前景化しにくい。

その意味で、久石譲という作曲家の本流を聴くなら、むしろ北野武映画の劇伴群こそが重要なのだと思います。

他方、北野武×久石譲のコンビにあたる作品群はこちらです。

『あの夏、いちばん静かな海。』(一九九一年) - 久石譲
『ソナチネ』(一九九三年) - 久石譲
『みんな〜やってるか!』(一九九五年) - 久石譲
『キッズ・リターン』(一九九六年) - 久石譲
『HANA-BI』(一九九八年) - 久石譲
『菊次郎の夏』(一九九九年) - 久石譲
『BROTHER』(二〇〇一年) - 久石譲
『Dolls』(二〇〇二年) - 久石譲

特に、『ソナチネ』『キッズ・リターン』『HANA-BI』『菊次郎の夏』の4本を担当しているのは、色々な意味で大きいです。

基本的に、ミニマルという路線が敷かれた上で、そこから自由にやっている。だからこそ、ジブリでは味わえない、超一品級の劇伴揃いであると言い切れます。これについては、いずれ別の記事で書くべき議題といってもいいでしょう。

まだまだ語りたいことはありますが、文字数的なことも考慮し、ここまでとします。

長丁場の記事を最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。

出す出すといって全く出ないamazarashiの記事ですが、次こそ出せるようなんとか頑張りますのでもう少しだけ待ってください。

sai96i.hateblo.jp

礼といってはなんですが、数あるアルバムの中でも、久石音楽を余すことなく堪能できる5枚と、筆者ベスト楽曲10も載せておきます。

セレクト理由は蛇足なので書きません。

アルバムベスト(Track条件付き)

『Piano Stories Best '88-'08』
Track 3、5、10、11

Piano Stories Best '88-'08

Piano Stories Best '88-'08

  • 久石 譲
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥1630

『Joe Hisaishi Meets Kitano Films』
Track 2、3、8、15

Joe Hisaishi Meets Kitano Films

Joe Hisaishi Meets Kitano Films

  • 久石 譲
  • サウンドトラック
  • ¥1630

『ENCORE』
Track 2、5、6、7、10、11

ENCORE

ENCORE

  • 久石 譲
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥1630

『Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi』
Disc 1:Track 3、9
Disc 2:Track 10、11

Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi

Dream Songs: The Essential Joe Hisaishi

  • Joe Hisaishi
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥2546

『Nostalgia』
Track 1、9

Nostalgia

Nostalgia

  • 久石 譲 & Orchestra Città di Ferrara
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 

 私的久石音楽ランキング

1.「Thank You, ... for Everything」

Thank You,...for Everything

Thank You,...for Everything

  • 久石 譲
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

2.「SUMMER」Essential版

Summer

Summer

  • Joe Hisaishi
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

3.「Oriental Wind」'88-'08版

Oriental Wind

Oriental Wind

  • 久石 譲
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 4.「Spring」Essential版

Spring

Spring

  • Joe Hisaishi
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

5.「Kids Return」オケアレンジ版

Kids Return

Kids Return

  • 久石 譲
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

6.「天人の音楽」

天人の音楽Ⅰ

天人の音楽Ⅰ

  • 久石 譲
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
天人の音楽Ⅱ

天人の音楽Ⅱ

  • 久石 譲
  • サウンドトラック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

7.「Cinema Nostalgia」バージョン問わず

Cinema Nostalgia

Cinema Nostalgia

  • 久石 譲 & Orchestra Città di Ferrara
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

8.「Asian Dream Song」

Asian Dream Song

Asian Dream Song

  • 久石 譲 & Pan Strings
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

9.「Nostalgia」Nostalgia版

Nostalgia

Nostalgia

  • 久石 譲 & Orchestra Città di Ferrara
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 10.「バビロンの丘」

バビロンの丘

バビロンの丘

  • 久石 譲 & Orchestra Città di Ferrara
  • クラシック・クロスオーバー
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

もう一度、武道館であの感動をやってほしいなぁ……。

今度は、『君たちはどう生きるか』のOST込みで。

 

追記

『君たちはどう生きるか』(二〇二三年)は、想像していたよりも久石譲が前衛に回帰した作品でした。

 

君たちはどう生きるか サウンドトラック

君たちはどう生きるか サウンドトラック

  • 久石譲
  • サウンドトラック
  • ¥2241

だからこそ、『風の谷のナウシカ』(一九八四年)から『君たちはどう生きるか』までを通して、ミニマル、ロマン、前衛が一周するようなコンサートを切望したいなと、記事のリライトをしていて思いました。