Music Synopsis

音楽に思考の補助線を引く

マスロックの名盤unutella(nuito)の魅力/トーマ楽曲の源流と魅力

 

どうも。rinoです。神僕のアルバム発売からはや一年。時の流れは早いものです。

下のブログも当サイトアクセス数にかなり貢献しており、人気記事常連になっています

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そして今またamazarashi関連で長丁場の記事を書いています。1万字超えるルートに差しかかっているので是非期待してください(でるのは来年かもしれんが)

(ここだけの話、amazarashiの記事には構想から書き直しの連続で1年かかりました)

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タイトルが長いですが、手短なものを思いたらこっそり変更するので心の中でも突っ込まないでください。

 

本編

プログレの前衛音楽の混沌さを普通の楽曲サイズに集約した音楽:マスロック(変則リズム)の中でも個人的に気に入っているアルバムがnuitoのuntellaです。凛として時雨のようなテクニカルな楽器隊であるものの、違いとして緩急のつけ方が元来のポップスミュージックではないことに尽きると思います。プログレって何?ってひとはこちらへ

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nuitoの音楽はトーマへ

 まずは1枚しかアルバムが出ていないためnuitoの音楽は以下7曲しか存在しない。

が音楽のスタイルとしては充分伝わってくると思う。

untella

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Intrjctn

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TongPoo

TongPoo

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弋

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Hinemos

Hinemos

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これらの楽曲を踏まえた上で 

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トーマの音楽を聴くとモロに影響を受けていることがわかる。

とあるインタビューで彼は

高校の時は一緒のバンドではなかったけど仲良かった人と組んで、バンドをやってたんですけど。その頃はずっとポスト・ハードコアやってて

 

うん、その頃はまだポスト・ハードコアがそんなに発展してなくて。たぶんメタル・コアとかだったと思うんですけど。たぶんブリング・ミー・ザ・ホライズンとか、あとプロテスト・ザ・ヒーローとかを聴いて、って感じでしたね。あんまり有名なというか、メジャーな方向は聴いてこなかったですね。なぜか。

 

それは1、2年ぐらいでフェイドアウトしちゃいましたね。僕がポスト・ハードコアをあまりやりたくなくなったというのもあって(笑)……趣味がコロコロ変わってしまうんです。そこでようやく今やってるボーカロイドを使って、自分で(音楽制作を)完結させようと思って、やり始めたぐらいです

との発言をしている

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ここで注目すべき点は赤字のところハードコアと二つの洋楽バンド、そしてメジャーよりマイナーを聴いていたというところ。ブリングミーザホライズン結成が04年なので

その時15-18歳トーマ青年はそう言った音楽に傾倒。彼がインターネット活動が2010年

少なくとも21歳 そして今は31-4歳くらいだろうか。年齢のことは一旦さておき,重要なのは2004年という時期である。これは何の年かというとnuitoデビュー歳であり、08年にunutellaの登場と考えると「マイナーを聴いていた」ということからおそらくnuitoもその中の一つであったと考えても変ではない。

気になるツイートにこのような文面がある

 

一般的に系譜としてwowakaやハチなどが挙げられる(影響をうけていることは間違いない)ものの,nuitoのような変則音楽からの指摘というのあまり目にしません。

同じボカロpという括りという意味では致し方ない面もあるが。

実際にTwitterを例にとってもnuitoとの言及ツイートは2016年以前はないです。

今回紹介しているnuitoのunutellaを聴けばトーマ音楽がいかにマスロックというジャンルと呼ばれる大系に影響を受けているか。そして、プログレにつながるということがわかると思います。このアルバムはバンドがインストルメンタルバンドであるため、歌詞はありません。ベースとギターとドラムの三位一体で構成されています。察しの言い方なら既にわかったと思いますがunutellaに収録されている全七曲は一つ一つがつながっている構成になっています。

7曲ある中でも特出しているのが,「NekoMaJiN Vs」 と、「消ええらるる世界」の二曲ですね。 

 特にギターのメロディとドラムと重なり合う瞬間の余韻はトーマ音楽に通じるところがある。彼が作ったeureka・アザレアの心臓のリテイクなどからは特に影響されている部位が多いという印象があります。バビロン(リベラも)であったり、骸骨楽団とリリアはむしろnuitoのピアノロック版と考えることも可能。

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(個人的にトーマ楽曲の最高傑作はこれとヤンキーB・G)

 この曲に至って一部切り取ってトーマ楽曲と言われても違和感がないほどですね。当然、nuitoだけでトーマ楽曲が成り立っているなんて1mmたりと思いません。が、リズムを変則という下地という意味では影響が相当入っているように思えます。

 

トーマの曲の場合「ボーカロイド」という楽器がある意味緩和しているようにもおもえます。楽曲に加えイラストと歌詞と音声がはいってくるため、ある程度の激しさというものを抑えて流ようにも思えます。

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九龍レトロとかはむしろ体現止めを歌詞でやっているあたり専らヒップホップの影響が強かったりするし、魔法少女幸福論なんかは完全にイメージで作っている感じもする。

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この楽曲のいいところは前半と後半で動画込みで世界観が少しだけ一転するそのなめらかさにある。

旅人と石の羽根はロキノンのちょっと変わった方面の楽曲っぽくもあるし、民族音楽っぽさなんかもある。ユリーカの箱庭なんかは珍しくテンポもローだし、サンセットバスストップにつながる側面もありつつ、王道な感じがする(普段の楽曲にくらべ ).

アザレアの心臓は驚異的な作品。一曲目から潜水艦トロイメライで二段サビなんてことをやってのける。やはりトーマが持つ音楽的才能・センスが異常であることに間違いはない。

 

バビロンで有名になる前はミーミルの花は、完全に奥部にいくより寧ろ手前あたりでハードコアっぽさを全開に出している。

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同時期の十字塔の丘はエレクトロニック・トラップ・ピアノメロディなどの要素に少しハチの退廃さがあるうえであの間奏を入れてくるトリッキーな感じが素晴らしいです。

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とにかく引き出しが多く、並大抵ではこんなことはできないので(実際に表層だけ真似したボカロpはいても,奥の奥まで読み取ってそれを取り入れた作家はいなかったし)

究極の緩急がついた傑作 幽霊屋敷の首吊り少女

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は後半の間奏からゆっくりになっていき、そしてドラム合図でどんどんリズムを戻して

畳みかけて、最後にピアノソロ(これもちょっとしたトーマ節)で終わるかと思いきやギターの歪みで終わるなんともいえないこの現実歪曲空間感は凄いです。

今まで列挙したようにエレクトロニック・マスロック・民族・ハードメタル・ヒップホップ・イメージ想起(これはジャンルではないけど)など様々な形式の楽曲をやった後で一番受けがいいというとみんな大好きそうなバラード「オレンジ」がくるわけです。

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いままで(いい意味で)変な曲ばかりつくっていたあのトーマさんがついに !!っと当時は思ったもので、しかもサビへ入りかたが日本人大好きパターンだったり、転調したあとにギターソロがはいる。これがじんっぽくもあったりしていいんですよね。そして

「愛していました 最後の今日まで」の日まで、のところでドラムをのせて感情爆発型

ともいえる感動を誘う構造でできて、最後は「さよなら」でしめる。満点です。

 

そして誰もがメジャーで歌手路線と思ったであろう歌唱楽曲です。

廃景に鉄塔、「千鶴」は田園にて待つ。

廃景に鉄塔、「千鶴」は田園にて待つ。

  • トーマ
  • J-Pop
  • ¥204
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一方でトーマ節が炸裂した曲をつくりながら

心臓

心臓

  • トーマ
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こちらでは割とオーソドックスな曲を作ってくるバランスの良さ。

心臓に至っては「どこかで生きている からね」という歌詞が結果的に数年間消えてしまったトーマさんを待っているファンからしたら重く感じたと思う。だからこgyoson 

としてきたときに驚いたのだけれど。


Gyoson - Downhill (Audio)


Gyoson - Lowland (Lyric Video)


Gyoson - 白夜(Audio)

 

まぁ結論はトーマすげええm( ゚д゚)mってことで。アザレアの心臓を買ってください(一曲だけでも)。そして気が向いたら私が書いた感想記事もどうぞ()

アザレアの心臓

アザレアの心臓

  • トーマ
  • J-Pop
  • ¥2037

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 そしてgyosonとしての彼に興味を持っていただければ一ファンとして喜びを分かちあえるのでいいかな なんてね。

 

立ち位置 

メタル音楽を根底におきながらどこかエモーションを感じるような音楽。もっというとあまりに洗練された音楽で変則リズムで進行している楽曲一群というべき。シューゲイザーの金字塔であるLoveless(my bloody Valentine)から感じ取れれるような重厚なギターの音圧ではなく、プログレから派生した前衛音楽的な形をそれぞれの楽器隊が超絶技巧を駆使して作り上げている。そんな音楽です。

もっとわかりやすくいうのであればナンバーガールからwowakaとtk(凛として時雨)

とはまた別方向にいったバンドという認識。wowakaほど無機質でもなく、インストバンドのためtkの高音というなの楽器と技巧曲の混じり合った一種の世界を提示するわけでもなく、むしろナンバーガールが影響を受けたバンドの影響込みで取り入れて行ったそんな感じがします。

ジャンルの変容

ここから少しだけジャンルの歴史について言及します。

マスロックというジャンルは最初にも書いた通りプログレからの派生ジャンルです。

90年代にでてきたシューゲイザーを無理やり上記二ジャンルとつなげるとしたら90sに活躍したレディオヘッドの存在をおけば意外と無理がないというお話。

オアシス結成:1991年 レディオヘッド:1992年 Loveless:1991年

つまり90年代にオアシスがでてきて、もう一度The Beatlesを倣ったようにレディオヘッドプログレからの影響を汲み取り再び実験音楽という方向でデビューした。それが如実に現れているのが代表作 OK computer。

 そしてシューゲイザーというジャンルそのものの台頭も90年代。この時代にヒットしたアーティストは60-70年代の音楽の再解釈で新たな音楽を作ってきた時代と考える。そしてシューゲイザー自体は長続きしなかったもののニューゲイザー(進化系)が2000年代に生まれる。nuitoデビューが2004年。時代を同じくしてテラ・メロスの登場。つまり、シューゲイザーチルドレンと捉えられる。なによりシューゲイザー自体が60年代からはじまったサイケデリック(LSDといった幻覚剤を音楽にしたもの)というジャンルからの派生であることに疑う余地がない。そこから自分たちが素面で表現する前衛音楽・実験音楽につながる歴史を考えれば2000年代までに以下のようになる

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ざっくりジャンル歴史
 新しい音楽ジャンルは循環である。

この項目は人によっては意見が変わるため、あくまで私の意見として読んでください。

この記事で「昔のアーティストの再解釈」ということを書いたが、音楽を作るという意味でとても重要なことである。The Beatlesが放った音楽(今回でいうとリボルバーがそれにあたる)ポップスはもちろんこういったマイナージャンルの先駆けまでジャンルで一枚アルバムを出しているのだからやはりThe Beatlesの偉大さは我々が思っている10000倍は凄いと思いました。

Revolver

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トゥモロー・ネバー・ノウズ

トゥモロー・ネバー・ノウズ

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タックスマン

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フォー・ノー・ワン

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まぁそういった道が があって、そこから様々なジャンル(それはプログレだったりポップスであったり)が生まれた後、90年代にもう一度The Beatles現代版としてのオアシスが出てくる。そして00年代に日本でもほとんど同じようなことが起こりました。

それは07年から14年まで続いた「ボカロ音楽」という新しいジャンルの誕生です。

 

そしてそれはいかに構成されてきたかというと,ryo(supercell)が日本音楽を支えていた(今もだけど)小林武史的な音楽の作り方をしてポップスとしての初音ミク音楽を作り上げた上で08-10年ではハチがアジカンバンプ,radなどの音楽をバックボーンに楽曲を発表し、wowakaが90年代に日本で流行ったnumber girlsのオルタナ音楽を下敷きに置いた上でそれを初音ミクというボーカロイドに歌わせたという意味では真にボカロとの融和性に成功している。何を隠そうそれがいまの「ボカロらしさ」なのだから。この時代に無機質な音楽であったり、意味不明な単語の羅列であったりと、その後のボカロの下地の一端を作られ次の世代、11,12年ではkemuとじんがそれまでのボカロ音楽(07-10)と、それぞれが影響を受けた音楽(kemuならゲーム音楽など)を土台に高速BPMシンセサイザーの融合で一種のボカロ楽曲としてのスタイルを作り上げた。13-14年ではトーマやorangestarなどがそれぞれマスロックやsupercell・TIMなどから影響を受けてそれぞれ不規則リズム楽曲・よりEDMを緩和したポップスの楽曲などを作り上げ、Neruなどにいたってはamazarashiの厭世観を直に反映しつつ、自分の世界を作り上げていった。

これ以降なぜボカロがいまいち流行らないかというと、かつての音楽の再解釈をほとんどのジャンルでやりきってしまったがために、「目新しい音楽を作るための素材ジャンル」が枯渇していることに一因があるのではないかと私は考える。要するにボカロジャンルが既に固まりすぎて新しい枠を作れない。しかし、今のメジャーの世界ではどうかというと不思議なもので大ヒット曲の根底は昔の日本の楽曲であったりする.Lemonは古く言えば hello my friend 

Hello, my friend

Hello, my friend

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 やアンダーグラフのツバサ

ツバサ

ツバサ

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 から系譜したサビの展開の仕方であったり、あいみょんマリーゴールドは誰が聴いても昔ながらのポップスさというものを反映した作品になっているし、これからの活躍・実績にもよるが、宇多田ヒカル椎名林檎以来の主流女性アーティストとして中核を担う存在にもなりうる。この流れで行けば今の音楽を聴いている層が、作り手になった時、かつて自分が好きだった音楽の再解釈をしてその時代に適した音楽が生まれると考えてまず間違いはない。

一つの作品が模倣からはじまるのが通説なのと同じで、新しいジャンルというのも昔ながらの音楽を換骨奪胎して発生する一種の巣や減数分裂のようなもものである。

こういった一種の創作論を語ると色々なところから攻撃されそうな予感もありますが、それを恐れていたらブログなんて書けないのでまぁいいでしょう。

 

謝辞

本記事を書くに当たっての動機はトーマとの関連性でしたが、nuitoについてのバックボーンなどについてはあまり知らず、下記の感想記事からのそういった情報と言葉表現など多いに影響を受けました。リスペクトの念も込めてここの場を借りて感謝致します。

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また、guilty forestというブログそのものもとても面白く私自信とても参考になると思ったのでみなさんも是非ご覧になってください。

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